需要計画の作り方
サプライチェーンマネジメントの書き物を読んでいると、日本では「PSI(Production/Purchace, Sales, Inventory)の管理がサプライチェーンマネジメントだ」という説明をよく見かけます。ただここで、なぜ、需要(Sales)より、生産(Production)が先にくるのか と疑問に思ったことはありませんか?
製造現場の力が強い日本では需要がなくても生産してしまうのか、たまたま語呂が悪かったからかわかりませんが、いずれにしても、市場や顧客の需要があって初めて、製品や商品は生産されたり調達されなければなりません。
そこを間違えると、不安定な社会情勢を受けて昨今バタバタと閉店したり不振に陥っているアパレル企業のように、売れない在庫の山で溢れかえることになってしまいます。実際、アパレルに限らず見込生産品や一般消費者向け商品などに関して、しっかりした需要計画のプロセスを踏まずに売上予算からせいぜい在庫だけを考慮した需要が即生産依頼として取り扱われているケース、また調達部署や工場が営業からの情報を信用できないために自ら需要を読んでいるケースなど、需要計画の仕組みが組織的にできていない企業も多く存在します。
では、需要はどうやってわかるのか…。
調達、生産のもととなる需要計画は、どうやって作られるべきでしょうか?
そこで、この記事では需要計画*の作り方 について解説してみたいと思います。
需要予測とは
需要計画というと、最近では真っ先に、「需要予測」を思い浮かべる方が増えてきました。AI(人工知能)により、過去のデータを学習させて未来の傾向を計算させようというものです。
昨今のSCMソリューションでは、機械学習や統計モデルを利用した需要予測システムを提供しているものがあります。需要予測の方法も、Googleが提供するTensorFlowや、FacebookのProphetというような、オープンソースの予測エンジンが使われていたり、独自のアルゴリズムが実装されていて、製品の特性に合わせて適切なモデルを適用します。また中には、複数の手法で同時に予測計算をした中から、最も精度の高い予測結果をレコメンドしてくれるものもあります。飲料や食品メーカー、ガソリンスタンドを持つオイルメーカーなどの消費者向け製造業では、需要予測は、需要計画を作るうえでの重要な要素となっています。
需要予測が外れた場合
そのように説明をすると、もう人が需要計画を「作る」必要はなく、コンピュータが自動的に算出してくれるんだと思われる方もいると思います。でも本当に全ての品目にそのようなことが通用するのでしょうか?
答えは「No」です。なぜなら、いくら大量の過去実績データがあろうとも、需要の変動が激しい商品には需要予測は当たらなかったり、顧客をガッツリ握っている法人の営業担当は顧客の将来の動きから、必要とされる数字販売数を捉えていたりするからです。このような法人向け製品などは、営業担当の「意思入れ」を必要とします。営業担当は、過去の売上実績や前月の販売計画、そして顧客のビジネス状況から自身の将来の販売計画を策定します。(T3ではDemand Planningモジュールを利用します)
商品の特性によっては、需要予測結果を基準として利用することが推奨されるものもあり、そのために、弊社では、需要予測をあくまでも”Baseline”-基準となるデータと位置付けています。21世紀のAIでも未来予知はできませんから、予測はひとつの基準であることを理解し Baseline を生かす部分と意思入れを必要とする部分を切り分ける事が大切です。
どのような特性の商品に需要予測結果をそのまま利用し、どのような製品には意思入れをするかは、導入時に弊社需要予測のソリューションコンサルタントが分析し、お客様と協議の上、ガイドラインを作成します。
弊社のソリューションであるT3のBaseline Forecastについては、弊社Webサイト「AIを使った需要予測について」でも紹介していますのでご参照ください。
販売計画の集計と配分
ボトムアップとトップダウンによる需要計画の策定
製品の特性によっては、需要予測がそのまま将来の需要計画になり得ることがある また需要予測を基準として意思入れをするケースもあることを前述しました。
ここでは、その意思入れする需要計画の一般的かつ規範となる策定手順について解説してみたいと思います。
企業では一般的に、事業部、製品群、地域、販売拠点別に売上目標を持ちこれに対する実績を管理しています。需要計画は、小さい管理単位の計画を積み上げて集計する(Aggregation)ボトムアップ計画と、会社全体や事業部単位の売上目標を、小さい管理単位に配分する(Disaggregation)トップダウン計画の方法で行われます。
トップダウンの場合は全体の予算から配分するのですが、一般的には過去の実績や売り上げ予算の比率で配分されます。
そしてボトムアップの場合、全体の売上は、小さい管理単位の計画を順番に集計したものになります。多くの企業では、月1回程度のペースで販売実績を見て、将来の計画を見直しを行います。海外に多くの販売拠点を持つグローバル企業などでは、各国の営業担当の計画とこれらを集計した拠点の計画があり、さらに地域統括販社が複数拠点の集計をして、全拠点分を本社で集計してようやく全社目標との比較、前年度対比などができるようになります。
これをExcelで行っている企業では、ファイルをかき集めて集計する、そして分析を行うことが手作業となり、時間も人手もかかります。月次の計画のためにグローバルの集計だけで2週間を要して、さらにそこから基準生産計画を作るのですから翌月以降の計画に丸々1か月かかってしまうことになります。しっかり評価したり検討する時間がほとんど取れません。需要計画システムでは、こうした、個別営業社員や販売拠点の需要を組織階層ごとに即座に集計(Aggregation)するプロセスを支援できることが要(かなめ)となります。
ただ、集計といっても、単純に全員が同じデータベースに書き込めばよいかというとそういう訳ではありません。各々の計画には精度が要求されます。つまり、それぞれのレベルの計画精度がいい加減 -例えば営業担当が全員強気の計画数を入力した場合ーだと、それを積み上げたとき、実現性のない大きい数字が作られます。それをそのまま需要と捉えて供給必要数としてしまうと、必要以上の調達や生産が行われ、売れない在庫の山を抱えてしまうことになります。(こうした川上での変動が川下への影響を大きくしてしまうことを、ブルウィップ効果 と呼んでいます)そこで、「精度の高い需要」を作る必要があるのです。
精度の高い計画とは
調達にせよ生産にせよ、企業の活動は需要(=売上予算・売上数)を起点として行われます。前年度より大きい売上を狙うのであれば、広告・宣伝活動もより活発にするでしょうし、工場のラインを増やす、稼働率をより高く保つなどの施策がとられるでしょう。実現不可能な大きい売上予算を作ってしまうと、社内リソースやお金をムダに使った挙句、売れない在庫を増やす結果となり会社の経営を危うくすることもあるわけです。反対に、達成できないことを恐れて小さすぎる計画にした場合、機会損失を招きせっかくの成長の機会を失ってしまうこともあります。需要計画に精度が求められるのはこのような理由からですが、実際「精度の高い」需要計画はどうやったら作ることができるのでしょうか?
過去実績や影響因子を勘案してコンピュータがはじき出した需要予測ですが、そのまま予測を使える製品とそうでない製品があります。季節や天候など需要の影響因子がはっきりしているものや、将来の販促計画やイベントによる需要増が見込めるものであれば、ある程度予測を販売計画として利用可能でしょう。ただし、法人向けの製品や販売チャネルへの預託品、要求に応じて仕様が変わるような産業用製品などは、営業が情報を握っていることがほとんどです。こうした製品に関しては、コンピュータによる需要予測の対象外とする、または参考にはするが営業担当による数字調整が必要になります。こういった需要に対する調整を「意思入れ」と言います。
需要を計画するにあたって
一般的には事業部や製品カテゴリー別、法人向け製品であれば顧客別で年度の売上目標(金額)があり、それに対して商品/サービスごとの数量が決まります。よって、長期的な計画は事業別・商品群ごとに金額で、短期的にはSKUごとに数量で計画の値を作ります。その際に、前述の売上目標や需要予測、前月までの実績が目安になるわけです。ただ、ここで前にお話したブルウィップ効果が問題となります。意思入れで強気の計画をたてる営業担当者がいるとします。多数の営業が、実績が上がっていないのに自分の担当する顧客向けの在庫を確保しておきたいために意図的に多く設定した場合、そういった営業が多くいればいるほど、集計した需要計画は現実とかけ離れた大きい数字になってしまいます。
そこで、一般的に、システムによる需要計画の意思入れ画面では、過去の実績と計画を直感的に比較できるグラフを提供しています。自分自身の計画だけでなくマネージャーは部下の計画のチェックもできます。また、画面のPivot機能を使えば、製品カテゴリ別、顧客×製品別、地域別など切り口(Dimension)を変えて集計されます。金額情報しかない年初の予算であれば、金額の情報種(Measure)に加えて、グラフも金額表示に切り替えて比較可能です。金額は為替マスタを使って指定する通貨で表示できます。原価の登録がされていれば、利益率の評価もできます。
このように、様々な観点(Dimension)から、必要な情報種(Measure)をユーザが自分で選んで集計しながら、売上(金額)を達成するにはいくつ(数量)の計画にするのがよいのか、前年同月の実績と比べると今回の計画は多すぎないかなど、評価しながら数字を作っていくことで、より精度の高い計画値が作られます。
需要計画は会社の活動のトリガーですから、こうした人の意思入れで戦略的に計画を作っていくことが販売側としては重要な業務の一つであるべきと、弊社では考えています。