システムの観点から考えるSCM成功の3つのポイント-ERPや基幹システムとの違いも解説
SCMという単語は認知されていても、ERPや基幹システムとの違いなど意外と知られていないケースは多いように感じます。そこで今回はシステム導入という観点から
- そもそもSCMシステムとは
- システム導入の前に考えるべきこと
- SCM導入でポイントとなる3つの壁
などご紹介いたします。
目次
SCMとERPの違い
サプライチェーンとは「調達(Source)」「生産(Make)」「輸送(Deliver/ Return)」の連鎖を基本としたモノやサービスの供給網のことを指します。そして、サプライチェーンマネジメント(SCM)とは「サプライチェーン全体の価値が正となること」を目的として、「サプライチェーンに関する諸活動の設計・計画・実行・コントロール・モニタリングなどを行う活動を指す用語です。(下図参照)
一方、SCMと混同されやすいのが「ERP(Enterprise Resource Planning)」です。ERPとは、企業の根幹業務ともいえる「販売」「調達」「在庫」に加え、「生産」「人事給与」などの管理を統合し、情報の一元化による経営効率化を図る手法あるいはシステムのことです。生産、販売、物流などの個々のプロセスに加え、財務や経理なども含めた経営資源を一元的に管理するためのマネジメント手法です。
ERPとSCMとの違いは、SCMの対象が資材調達から商品の流通販売までのサプライチェーンに限定されるのに対し、ERPはSCMを含む全ての業務データを管理することで企業活動全体の改善を可能にする、という違いがあります。
基幹システムとの違い
基幹システムとは、企業の主要な業務を支えるためのシステムです。例えば、販売管理システム、購買管理システム、在庫管理システムや会計システムなどであり、部門や業務ごとに導入されます。実行系システムともいわれていますが、何らかの不具合により動作が停止すると、企業の活動自体ができなくなることもあるなど、経営活動を止めざるを得ません。そのため、企業の運営に直接影響し、経営の根幹を支えるものといえるでしょう。
SCM導入で手に入れたいものは何か?
サプライチェーン全体の価値を正とするには、サプライチェーン上にある、様々な制約のもとで何を価値として最大化あるいは最小化したいかを意思決定することが重要です。これはつまり、限りある経営リソースをどこに投入するか、最適化を図るかのか、という経営課題であり、最適化問題です。最適化問題において、最大化あるいは最小化したい関数のことを目的関数といいます。逆に目的関数を最大化あるいは最小化する引数を求める問題が最適化問題です。
これまでは、利益の最大化、コスト最小化が目的関数として語られてきましたが、これからは、環境負荷の最小化もサプライチェーン全体の価値を図るための指標となるでしょう。
自分たちが、ステークホルダーとの関わりやバリューチェーン上でどんな付加価値を生み出したいのか?そのためにどんな戦略、ビジネスモデルをとるか、そこを起点することで、どこに集中的に資源を投下すべきかを考える必要があります。戦略とサプライチェーンマネジメントは紐づけて意思決定がなされるべきでしょう。
サプライチェーン・マネジメントには、元々地球上の資源をどのように配分するか という大きなテーマが存在しますが、サプライチェーンのリスクを考えるにあたっては、コロナ禍における供給の寸断だけでなく、ロシアのウクライナ侵攻をきっかけに、地政学的なリスクを避けて通れなくなりました。
もはや、在庫削減、業務効率化といったオペレーションマネジメントの課題解決というより、地球全体の環境や、世界の政治情勢を見据えた、未来へ向かった意思決定を下すことが必要になっています。
自社では無理だと思っていませんか?
これまで、SCMに必要不可欠なソリューションやソフトウエアは、大企業をターゲットとした外資ベンダーや国内大手SIerによって提供されていたため、高額なものとなりました。
そのため、業界では、「SCMは大企業だけのもの」というイメージが根深く定着しています。特に、大きな資本を持たない企業では課題を解決しようとした時に、障害となる「壁」が存在すると聞きします。
1.ノウハウの壁 …全体の問題解決を推進するための知見が不足
2.組織の壁 …関係者が多すぎて自部門だけでは解決できない
3.投資の壁 …ソリューション導入に費用が掛かりすぎる
3つの壁をこのように我々は呼んでいますが、あたかも実際に立ちはだかっているような、目に見えないものを壁として暗黙のうちに容認してしまってはいないでしょうか?(うちの会社は組織の壁があるからねー、なんて良く耳にしますね)
何を基準に選ぶのか?
目的を明確にする。SCMを導入することで得られるものは何なのか?を明確にしましょう。そのうえで先に延びた”壁”を乗り越える選択肢が必要です。それぞれの壁を乗り越えることができるのか?を基準に選びましょう。
ノウハウの観点
日本では認知度が低いですが、もともと、AIPCS、アメリカの生産協会と言っていたものが、最近、Supply Chain Counsilと一緒になり、ASCM(Association for Supply Chain Management)という団体に変わりました。ここが整理した「国際標準の共通用語」と「知識体系」が存在します。
グローバルオペレーションにとって国や文化背景の異なる人たちが、同じ概念で共通の用語を利用することが、相互の業務理解にとって重要ですし、こういったグローバル標準を共有することができる仕組みであることが重要です。
組織の観点
組織横断で行われるサプライチェーンマネジメントは、どこで何が行われているのか?報告のためのレポートでなく、今を捉えるための共通基盤が必要です。また、仕組みは強制力をもった仕掛けであるべきです。
サプライチェーンマネジメントはワンナンバー、ワンプランが極めて重要です。各機能や拠点がそれぞれちがった前提で話をしていては全体最適化は図れない、ということになります。各レイヤーでレポートが違っているのもよくありません。現場とマネジメントが同じレポートで会話し、意思決定することが必要です。このような機能を持ったシステムを選択すべきでしょう。
投資の観点
サプライチェーンマネジメントには多くの人が関わってきます。時間もお金もかかるので、ステップを踏んで進めることをお勧めします。計画倒れ、PoC止まり、といった話もよく聞きます。システム導入は、ステップを踏める選択肢があると良いでしょう。
昨今のIT導入は企業が自力で実行、遂行するのは困難です。プログラムコードを記述しないローコード開発で内製化することも考えられますが、できるだけ既存のパッケージ製品を利用するのが得策ではないでしょうか?SaaS型は常にプロダクトがアップデートされ続けます。変わる、進化することが当たり前の仕組みとして取り入れることで常に最新のプラットフォームが活用できるため強力な選択肢になります。
SCMは目的ではなくあくまで手段
ここまでお伝えした通り、重要なのはSCMで何を得るかを明確にしたうえで導入することです。得たいものによって巻き込む人や最適なシステムも違ってきます。漠然とSCM導入・推進を目指すのではなく〇〇を実現するための手段としてSCMが最適だから導入・推進するように自社の現在の位置を把握しましょう。