2021.10.21

SCMに関わる人材にはどんな能力が求められるのか?

適切な人材を適切な仕事に配置する

サプライチェーン・マネジメントを成熟させるには、自分の仕事が社内の他の人々だけでなく、サプライチェーン上の川上、川下の人々にどのように影響するかを理解する必要があります。

自分がしている仕事の本当の意味や効果を理解していない場合、自分の仕事をより良くすることができるように学ぶ必要がありますが、学ぶことができないか、学びたくない場合、その人はその仕事にふさわしい人ではありません。適切な人材を適切な仕事に就けることは、効果的なサプライチェーン戦略を実施するための最初のステップです。

これは、サプライチェーン・マネジメント(以降SCM)をどのように実装するか?を提言しているThe New supply chain agendaにある、5つのステップの最初のテーマです。

同書は、Reuben E. Slone、J。PaulDittmann、およびJohn T. Mentzerによる新しいサプライチェーンアジェンダ(ハーバードビジネスレビュープレス、2010年)としてサプライチェーン管理の課題。著者は、運転資本と流動性、戦略、および調整について纏め、サプライチェーンマネジメントで会社をより良くするための5つのステップを示しています。

SCMの導入、高度化に取り組む場合、人的リソースをどのように選び、どのように配置すれば良いか?この問に向き合う経営者は多いでしょう。

SCMに関わる人材にはどんな能力が求められるのでしょうか。

SCM人材のコンピテンシーは、SCMの成功のための重要なファクターだと考えています。SCMの戦略や仕組みについてはよく議論されていますが今回はSCMに関わる人材にフォーカスを当てたいと思います。

サプライチェーンにおける人的資源に関する研究

今回、SCMに関わる人材に必要な能力について考えるにあたって、下記論文がSCM人材について深く考察されているため参考にさせて頂きました。私なりの意見を交えてSCM人材について考察をしてみたいと思います。

サプライチェーンにおける人的資源に関する文献レビュー:新たな研究アプローチの提案 中野 幹久 松山 一紀

SCM人材に求められる能力

論文では、SCM人材としてよく語られるのは、SCM部門の管理者や専門家、幹部に求められるスキルやコアコンピタンス、コンピテンシーといった能力や役割に関するものが大半を占めるが、近年のSCMの複雑性、グローバル化、顧客ニーズの多様化、またアウトソーシングなど事業構造の変化・複雑化もあってこういった人たちがリーダーとなる必要がため管理者や専門家、幹部について議論されることは有意義だと述べています。

そしてこういった人には、「サプライチェーンの意識(supply chain awareness)」、「全体像を見る能力(ability to see the “big picture”)」というスキルが重要であることを明らかにしています。さらに、「コンフリクトを解決する能力」「1つのシステムとして会社をみる能力」「機能横断的な意識」であることも謳っています。

それぞれの能力について、少し私なりの解釈を加えて考えてみます。

「サプライチェーンの意識(supply chain awareness)」

これはサプライチェーンに関わる人材であれば、なくてはならない能力ではないでしょうか。ただ、これを生まれながらにして、学生時代にしても能力を備えている人はいないと思います。言い換えると、サプライチェーンに関わるとなったとき、もしくは自分が選んだとき、主体的にかかわれるか?ということだと考えています。冒頭に引用した、自分のしていることが自分の仕事が社内の他の人々だけでなく、サプライチェーン上の川上、川下の人々にどのように影響するかを理解するということに他ならないのではないと考えています。

「全体像を見る能力」

SCMでは全体最適化が重要であることと同じように俯瞰して全体像を見ることが非常に大切になります。SCMはジレンマとの戦いのようなものです。1つの機能に議論が集中していては、最適化は進みません。さらに昨今は自社のみならずサプライチェーンに関わるステークホルダー全体での最適化もテーマになっています。より俯瞰して物事を見る能力が重要になるのではないでしょうか。

「コンフリクトを解決する能力」

多くの人は、コンフリクトは避けるべきものと考えるのではないでしょうか?どうも苦手だ、面倒だと社内の関係性でもコンフリクトは起こしたくない、避けるものの代表がコンフリクトだと思います。

ですが、コンフリクトを乗り越えた先に、これまでにない発想やアイデア、新しい関係性を得られたといった経験をした人は「コンフリクトを解決する能力」を備えようとするかもしれません。そういう人はこの能力を獲得しているリーダーです。

「1つのシステムとして会社をみる能力」

会社は様々な人や組織の関係性のうえに成り立っています。先ほども述べましたが、通常、各部門はKPI、KGIがそれぞれ違っており、それによっては利害が対立し、考え方も違うってくるでしょう。機能的に分かれている会社であってもSCMという観点で会社を1つのシステムとしてみた場合、自分(自組織)は他人(他組織)の影響を受けるものであり、他人(他組織)は自分(自組織)に影響を与えているものです。つまり、すべてに自分(自組織)は関わっているという考え方が選択できるかがとても大切です。SCMはどこかの機能が1つ改善すれば成功する、と考えているうちはなかなか成功に向かわないのかもしれません。

「機能横断的な意識」

縦割りとよく言われますが、SCMは縦割で議論していては進みません。多くの企業が機能ごとに組織、権限等を規定しているためか、人の組織のことに口を出してはいけないといった暗黙の了解があるような企業も多いです。しかし、SCMの代表的な機能として需給調整がありますが、これらは機能横断的な意識なしでは実行できません。機能横断的な取り組みで大切になる能力は何かを掘り下げることで必要な能力が見えてくると思います。

まとめ

SCMがカバーする領域は個人、自部署のみ、自管掌のみに留まりません。営業、開発、生産、調達、物流など多くの部門や役割の人々が関わることから、SCM人材のポイントは個人の特定の能力やスキルに頼っていては、成功しえないということだと考えています。

さらに昨今のテクノロジーの発展に伴い、IoT、AI、ビッグデータなどよりこれらの能力を備えた人材なくして、高度化は求められない可能性があります。

通常、各部門はKPI、KGIがそれぞれ違っており、それによっては利害が対立し、考え方も違うのが一般的です。SCMの成熟化や共通の目標に向けての成果を出すために、SCM人材に求められる能力を考えおくことは経営者にとって大切なミッションだと思います。

これらを踏まえて、先に紹介した論文ではSCM人材に求められる能力を整理・提言した表があります。SCMの特性を考慮した場合にとても参考になる整理だと思うため紹介します。各区分の能力項目の詳細も定義されているため非常に参考になります。いずれの項目を大切なものですが、特にSCMに関わる人の能力として特徴的なものをピックアップしたものを表①に示します。

如何でしょうか。
このような能力を改めて棚卸してみることで会社に必要なSCM人材の能力が見えてくるのではないでしょうか?
さらに、あなたの会社に必要な能力も新たに見えてくるのではないでしょうか。

このような人材はあなたの会社にどのくらいいますか?
あなたはどれくらい能力を備えているでしょうか?
あなたの会社ではどの能力の優先順位が高いでしょうか?それはなぜでしょうか?

表①SCM人材に求められる能力

SCM人材に求められる能力
※サプライチェーンにおける人的資源に関する文献レビューより抜粋

関連記事