2021.10.01

今、経営者が問うべきサプライチェーンマネジメントへの問いとは?

新型コロナウイルスのパンデミックが契機となり、サプライチェーンの見直しが経営の最優先課題の一つとして浮上してきています。

日経ビジネスのアンケートによると、コロナ・ショックを経てサプライチェーンの見直しを検討しているかどうかについて、「対策を決めて具体的に動き出した」との企業が、回答した109社のうちの28.4%(31社)に上っています。最も多かった回答は「対策を検討中」で43.1%(47社)で、この2つの回答に「これから検討する」を合わせると、実に80.7%(88社)に上る企業がサプライチェーンを見直すという結果になっています。

コロナの感染拡大で生産活動に支障がなかったと回答した19社のうち、13社がサプライチェーンの見直しをすでに実行しているか、もしくは検討すると回答しており、直接の影響がなかったとしても、第2波、第3波が世界を襲う際には影響が出る可能性もあり、BCP(事業継続計画)の観点から対策を考える企業も多いようです。

コロナ・ショック以前より、ビジネスのグローバル化、市場の不確実性や顧客ニーズの多様化等の背景により、サプライチェーンの構造はより複雑になり、サプライチェーンマネジメントの重要性は広く認知されるようになりました。大企業を中心に多くの企業が既に取り組んでいる中で、今般の状況を踏まえて、今、改めてサプライチェーンを見直すべき局面が来ています。その中で、経営者が考えるべきサプライチェーンマネジメントへの『問い』とはなんでしょうか?The New supply chain agenda*にある、5つのステップを参考に考えてみたいと思います。

なお、ここで『問い』と書いている趣旨は、筆者がコーチングのコーチをしていた経験により、良い考えは良い『問い』から生まれる、という信念により『問い』を検討の入口に据えているからです。

The New supply chain agenda*:Reuben E. Slone、J。PaulDittmann、およびJohn T. Mentzerによる新しいサプライチェーンアジェンダ(ハーバードビジネスレビュープレス、2010年)としてサプライチェーン管理の課題について書かれたもの。著者は、運転資本と流動性、戦略、および調整について纏め、サプライチェーンマネジメントで会社をより良くするための5つのステップを示している。

適切な人材を適切な仕事に配置する

サプライチェーンマネジメントを成熟させるには、自分の仕事が社内の人々だけでなく、サプライチェーン上の人々にどのように影響するかを理解する必要があります。

自分がしている仕事の本当の意味や効果を理解していない場合、自分の仕事をより良くすることができるように学ぶ必要がありますが、もし、学ぶことができないか、学びたくない場合、その人はその仕事にふさわしい人ではありません。適切な人材を適切な仕事に就けることは、効果的なサプライチェーン戦略を実施するための最初のステップです。

これは、サプライチェーンマネジメントのみに特化したことではありません。コロナ・ショックにより従来経験したことがない、未曾有の事態が起こりうることがこのパンデミックにより証明されました。これまでも、経済的なショックや大規模な自然災害は経験していますが、常に発生時から状況は変わっており、そこから起こる事態は予見できないことです。その事態に直面した時に、今何をすべきか、これは過去に何を学び、次にどうやって活かすか、問題や課題を解決するプロセスを学んでおくことが重要です。サプライチェーンに関わる人は、今後も学習し続けることが大切になってきます。

経営者は、サプライチェーンに関わる人が学び続けることを支援することが重要です。

  • この事態から何を学び、学んだことをどのように活かすべきか?
  • 学び続けるためにはどうしたらいいのか?
  • 学ぶ機会をどうやって提供するか?
  • 学び続ける人をどうやって増やすか?

適切なテクノロジーを導入する

サプライチェーンはテクノロジーに依存しています。テクノロジーは、毎日更新される付箋付きのホワイトボードのように単純なものでも、ERP(エンタープライズリソースプランニング)システムのように複雑なものでもかまいません。各ビジネス、および各ビジネス内の各機能には、異なるテクノロジーのニーズがあります。テクノロジーによってサプライチェーンがどのように価値を創造および獲得できるかを理解し、適切なテクノロジーを適切なタイミングで実装することは、新しいサプライチェーンアジェンダの2番目のステップです。

サプライチェーンマネジメントに採用されるテクノロジーは大幅に増えてきています。AIは需要予測で活躍していますが、コロナによるパンデミックを正確に予測したAIはあるはずがなく、今後も最新のテクノロジーがすべてを解決してくれるはずはありません。

  • 自分たちの置かれた環境は今どこで、何を必要としているのか?
  • テクノロジーによって手に入れたいものは何なのか?

その問いの上で必要なテクノロジーを正しく選択するべきです。そのためにデジタルサプライチェーンをはじめ広くテクノロジーを知ることは重要です。

内部コラボレーションに焦点を当てる

企業の組織図を見ると、従来のビジネス構造が企業内にサイロを作成し、部門が限られたリソースを求めて競合し、多くの場合、相反する目標に向かって取り組んでいることが簡単にわかります。サプライチェーンの観点から管理することで、企業内の部門が効果的に連携することを妨げるサイロを解消することができます。焦点を個別の部門のパフォーマンスから、代わりに会社のサプライチェーンのパフォーマンスに注目するように変更することにより、各部門は、それぞれの成功を他の部門に依存するようになります。営業チームはオペレーションチームと協力する必要があります。ロジスティクスチームは調達チームと協力する必要があります。誰もが会社の戦略を理解し、その戦略をサポートする共通の目標に向かって取り組む必要があります

サプライチェーンのなかでもS&OPが叫ばれてきましたが、個別の部門のパフォーマンスのみが評価対象ではサプライチェーンの改革は難しいといっていいでしょう。

  • 誰(どのチーム、どの部門)と組むと会社全体のパフォーマンスが向上するのか?
  • そのために今障害となっていることは何か?
  • どのようなコラボレーションが会社にとって有効か?

*以下の《SCMに関わる人の役割》も参考にしてください。

《SCMに関わる人の役割》

需要予測・デマンドプラン

製品やサービスごとの販売実績や原材料価格や為替の推移など、さまざまなデータを分析し、需要予測を行い、生産や物流、購買、営業戦略に生かす。予測精度高さはコストや利益に直結するため、緻密な分析力が求められる。

在庫管理

在庫量を把握し、適正在庫を維持することが求められる仕事。在庫品の破損や減耗から守り品質保持することも含まれる。在庫管理の合理化、効率化がうまく機能しない場合、売上機会のロスや顧客離れを生じさせるため、需要予測と同様、データ分析の結果に基づき、在庫量の決定を行わなければならない。

プロキュアメント

経営目標を実現するため、効率的な購買プロセスを構築する仕事。納入業者の選定、価格交渉、契約管理、購買ポリシーの策定、物流プロセスや購買オペレーションの見直しなどを行い、製品特性に合った購買基盤を構築していく。

ロジスティクス

効率的な物流サービスを必要とする自社または顧客企業に対して、在庫管理、梱包、配送などの面から、ロジスティクスサービスの構築や改善提案を行う。商品動向の分析や、原材料調達から出荷までのサプライチェーンプランニング、輸出入、倉庫内オペレーションの設計など、仕事内容は多岐にわたる。

外部コラボレーションの指揮

従来のビジネス関係はトランザクションであり、多くの場合自己中心的です。バイヤーとサプライヤーは、勝ち負けのゲームとして各取引にアプローチします。サプライヤーは利益を膨らませようとし、バイヤーは価格でそれらを絞り込もうとします。長期的には、このアプローチは価値を生み出すのではなく破壊するため、双方に損害を与える可能性があります。

持続可能なサプライチェーン関係を構築するために、各パートナーは関係に価値を提供する機会を探す必要があります。貢献の見返りとして、バイヤーとサプライヤーは持続可能な方法で価値を共有するためのシステムを開発します。目標は、サプライチェーンのすべてのパートナーが長期的に成功し、総価値を最大化することです。このアプローチは、長期的には害を及ぼすことを意味する場合でも、各当事者が各取引からすべてのペニーを搾り取ろうとするトランザクションアプローチとは大きく異なります。

広範で複雑なサプライチェーンの中で、sell-buyの関係性ではなく、sell-withの関係性と捉えることで違った関係性が見えてくると思います。

  • サプライチェーンのどこで(どの機能で)価値をつくりたいか?
  • それはどんな価値なのか?
  • 誰と組んで価値をつくりたいか?
  • 誰に対して、どうやって価値を提供するのか?
  • その価値によってどのように収益を上げるのか?

プロジェクトマネジメントの適用

サプライチェーンアジェンダの最後のステップは強力なプロジェクトマネジメント機能を実装することです。プロジェクトを適切に管理する方法を人々に教え、プロのプロジェクトマネージャーを関与させることは、顧客、サプライヤー、および会社の変化に応じてサプライチェーンを確実に進化させるための鍵です。

サプライチェーンの変革のためのプロジェクトには、強力なリーダーシップも必要です。リーダーの行動が組織の環境を作り、メンバーのモチベーションに影響し、会社の業績に反映されるでしょう。リーダーシップの定義は様々ですが、サプライチェーン改革を行うリーダーには、

体系的な思考、
不確実な状況への対応、
文化的な適応力、
結果を意識したコミュニケーション能力、
同僚や部下をやる気にさせる能力、
自発的に行動し説明責任を果たす

など、が求められます。

何より変化し続けることにチャレンジできる人材が必要です。

  • サプライチェーンリーダーに誰を充てるか?
  • どんなリーダーシップを発揮して欲しいか?
  • リーダーをどのように育てるか?
  • リーダーの育成ためにいくら投資するか?

最後に

コロナ・ショックはショック療法的にこれまで変化を拒んだところにも変化をもたらしました。社会は、普遍的な価値は精査し、新しい価値を創造するでしょう。

この5つのアジェンダについて、経営者は一度問うことで終わるのではなく、何度も、いつも問い続けることでサプライチェーンマネジメントを強靭でアジリティの高いものにする一歩なのだと考えています。

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