【セミナーレポート】事例で学ぶ、SCPシステム構築プロジェクトの進め方
ザイオネックスでは、SaaS型SCMサービス「PlanNEL(プランネル)」の提供だけではなく、SCMに関連するセミナーも開催しております。今回は、2024年12月5日(木)に開催した「事例で学ぶ、SCPシステム構築プロジェクトの進め方」セミナーのレポートを公開いたします。
SCP(サプライチェーンプランニング)システムの構築を検討するにあたり、「どのようにSCPシステムを構築していけばよいのか」や「これから取り組もうと考えているが、どのように進めるべきか」といった疑問をお持ちの方もいらっしゃるかと思います。そうした皆様に向けて、弊社の経験を基に、進め方のポイントなどをご紹介します。
目次
- SCMシステム検討のきっかけ
- SCMシステムとは? サポートする業務
- SCPシステムとは? SCPシステムができること
- SCMの理想的な在り方
- SCPシステムの導入プロセス Overview
- SCPシステムの導入プロセス プロジェクトの発足
- SCPシステムの導入プロセス 現状分析
- SCPシステムの導入プロセス 全体構想の合意
- SCPシステムの導入プロセス 組織・業務プロセスの整備
- SCPシステムの導入プロセス システム選定・検証
- SCPシステムの導入プロセス 導入プロジェクト
- SCPシステムの導入プロセス パイロット運用
- SCPシステムの導入プロセス スコープ拡大・高度化
- SCPシステムの導入プロセスとプロジェクト体制
- SaaS型SCMソリューション「PlanNEL」
- SCMソリューションを活用した業務イメージ(例)
- PlanNEL導入プロジェクト事例 プロジェクトの目標
- PlanNEL導入プロジェクト事例 プロジェクト概要
- PlanNEL導入プロジェクト事例 業務スコープ
- PlanNEL導入プロジェクト事例 導入による改善点
- PlanNEL導入プロジェクト事例 運用のポリシー・ルール定義
- PlanNEL導入プロジェクト事例 短期導入の成功要因
SCMシステム検討のきっかけ
SCPシステム構築を検討するきっかけについてですが、皆様それぞれ異なる課題や動機があると思います。その際によくあがる問題や課題について、いくつか例をあげています。
まずは、「将来の需要が予測できない」という問題です。最近では、AIを活用した需要予測が広まり、システム化を検討される企業も増えています。また、計画業務をExcelで行っている企業も多くあります。Excelは非常に便利なツールですが、製品・品種が増え、取引先や拠点が多くなると、行数が不足したり、担当者に依存した運用が限界に達することがあります。そのため、担当者が退職するとExcelでの管理が維持できなくなるケースも見受けられます。
さらに、コロナ禍以降の影響として、「生産過剰」や「売上の急激な変動」に直面する企業もあります。コロナ禍では一時的に売上が伸びたものの、その後は売上が減少傾向にあるケースや、逆に急増する需要に対応しきれないケースもあります。このような状況では、販売と生産が同期せず、問題が生じることがあります。
特に急激な販売増加により、バックオーダーが大量に発生し、短期的な生産計画では中長期の供給に支障が出る場合もあります。たとえば、金属部材などの調達に半年以上の時間がかかることもあるため、目先の生産計画だけでなく、中長期的な視点が必要です。また、各国にある拠点ごとの需要に対して適切なアロケーション(配分)ができていないという課題もよく聞かれます。
最近では、確定受注に基づいて生産していたものの、供給が間に合わないため、見込み生産に切り替える企業も増えています。また、地政学リスクなどの影響で拠点を変更せざるを得ない状況が生じ、供給網が複雑化するケースもあります。こうした状況では、従来の手作業では対応が難しくなっています。
このような課題を抱えるお客様に対し、私たちはSCMプロジェクトをサポートしています。
SCMシステムとは? サポートする業務
まずは、SCMシステムについて触れます。本セミナーでは、「SCMのPDCAを回すための管理システム」と定義しています。サポートする業務は「計画系」と「実行系」の2つに大きく分かれます。「実行系」の部分については、すでにERPや会計システム、生産管理システムなどを活用して対応されている企業が多いと思います。
一方で、本日のテーマは「SCPシステム」に焦点を当てます。
この計画系システムの業務領域は大きく「需要計画」と「供給計画」に分かれます。
需要計画では、長期的な予算計画やAIを活用した需要予測、さらには人が関与する販売計画が含まれます。一方、供給計画では調達や生産、在庫管理、補充(発注計画)などが含まれます。また、生産計画や輸送計画など、中長期的な需給調整を行う「ラフカットプランニング」も供給計画の一部です。
日本では特に生産計画の導入が進んでいますが、これは個別計画として位置づけられます。これらの枠組みを理解し、SCPシステムを有効活用することで、効率的なSCMの運用が可能になると考えています。
この「需要」と「供給」という枠組みについては、特に弊社が独自に定義しているわけではなく、世界的にSCMの標準的な考え方として広く認識されています。また、計画を立てるだけでなく、その結果を評価することもSCPの一部に含まれます。
ここでは、SCPシステムがどのようなことができるのか、いくつか例をあげています。すべての項目を詳しく説明することは省きますが、主要な点を簡単にご紹介します。
SCPシステムとは? SCPシステムができること
まず、需要計画についてですが、AIを活用して需要を予測する機能があり、需要計画における「意思決定」が非常に重要な機能となります。これは、どれだけの需要に対して生産や調達を行うかを決定する部分で、営業部門が把握している顧客動向に基づいて、将来の需要を入力する機能です。この入力データはデータベースに保存され、自動的に集計される仕組みも備わっています。さらに、トップダウンで予算を分配する機能も含まれています。
よく聞かれる課題として、「営業部門が入力した需要計画は当てにならず、工場ではあまり参考にしていない」という声があります。確かに、日本の工場の皆様は非常に優秀で、これまでの実績から生産計画を立てることができています。ただし、近年は市場の変化が加速しており、需要に基づいた計画を立てなければ、過剰在庫や欠品といった問題が発生する可能性が高まります。そのため、この需要計画は非常に重要な役割を果たします。
次に在庫計画についてです。在庫基準を計算する機能では、よく「2ヶ月分」「3ヶ月分」という基準が使われますが、これを過去の実績から算出します。また、補充計画(発注計画)では、現在の在庫量や需要を基に、どれだけ発注すべきか、どれだけ生産依頼を出すべきかを計算します。
さらに、供給計画(需給計画)では、生産能力を考慮し、必要な数に応じて生産可能な数量を計算します。これには資材の所要量計算も含まれます。そして、計画の結果をモニタリングし、評価する機能も含まれています。
以上のような機能がSCPシステムで実現可能です。これらは弊社が提供する「PlanNEL」に限った話ではなく、一般的なSCPシステムが提供している機能です。
SCMの理想的な在り方
さて、ここからはプロジェクトの進め方についてお話しします。まずは、一般的な「成功法」としてのプロジェクトの進め方をご紹介します。その前に、SCMの理想的な形として、以下の3つを挙げたいと思います。
1つ目は「グローバルオペレーションセンター」と呼ばれることもある、全社SCMを俯瞰的に最適化するためのコアとなる組織です。すべての企業にこのような特化した組織があるわけではありませんが、SCMはに多くのステークホルダーが関係しますから、こうした管制塔としての組織は非常に重要です。
2つ目は「データに基づく計画」です。経験や勘に頼らず、できるだけリアルタイムのデータを活用して合理的な計画を立てることが求められます。
3つ目は「仕組みのインフラ化」です。SCMの仕組みは、関係者が同じ情報に基づいて議論を進められるものでなければなりません。この点で、ERPなどの基幹システムと同じような位置づけで考えるべきです。
ここからは具体的なプロジェクト導入プロセスについてです。「どう進めればいいのか?」という疑問にお答えする形で、8つのステップをあげています。一見すると非常に大変そうに思えるかもしれませんが、簡単に説明します。
SCPシステムの導入プロセス Overview
SCPシステムは、複数の部署が関わるため、会計システムなどとは異なり、必ずプロジェクトとして進める必要があります。このプロジェクト化こそが最も重要なポイントであり、同時に難しい部分でもあります。そのため、まずは「プロジェクトとして正式に開始する」ことが重要です。
また、発起人が誰であれ、関係者を集めて複数部門にまたがったプロジェクトメンバーで組織を形成することが必要です。その第一歩として「現状分析」を行い、自社の現状を正確に把握します。
次に「全体構想」を作成します。現在の状況を踏まえ、「将来的にこうなりたい」というビジョンを明確に描きます。ただし、一気に理想の状態を目指すのは現実的ではありません。一般的には、ステップごとに計画を立て、それを「ロードマップ」として全社で合意するのが重要なステップです。
その後、どのように組織体制を整備し、どのように業務を進めていくかを決めます。特に日本の企業では、複数の業務を兼任するケースが多いため、役割と責任を明確にすることが課題となります。例えば、「拠点ごとの在庫管理は誰が責任を持つのか?」という問いに対して、拠点が管理するとした場合、それで本社は把握しなくてよいのか、という議論が必要になります。
実際に、連結対象となる拠点(例えば、子会社や関連会社など)の在庫は棚卸資産として連結財務諸表の貸借対照表(BS)に反映されます。そのため、拠点が好きなだけ在庫を保有してよいというわけではありません。また、拠点が大量の在庫を持つということは、それだけ多くの調達を行う必要があるため、キャッシュが流出する要因にもなります。このように、「誰がどのように責任を持つのか」という点が非常に重要となります。
さらに、SCPシステムを導入する際には、業務プロセスをどのように設計し、運用するかが重要です。このような全体の方針が決まった後に、システムの選定や検証が行われます。多くの企業では、システム選定の際に情報収集を行い、その後、PoC(Proof of Concept、概念実証)やPoV(Proof of Value、価値実証)といった検証を実施します。これらは実際にSCPシステムを使用して、自社のニーズに合っているか、効果が期待できるかを確認するプロセスです。
その後、ようやく導入プロジェクトが正式にスタートします。通常、このプロジェクトでは、要件定義、設計、開発といったプロセスが進められます。最近では、アジャイル開発の手法を取り入れるケースも増えていますが、SCPシステムは即効性があるわけではなく、成果が見えるまでにはある程度の期間が必要です。
例えば、月に一度計画を立てる運用を始めた場合、最低でも3ヶ月ほど継続して初めて、「こうすれば良い結果が得られる」「在庫が可視化され、管理が改善されている」のような実感ができるようになります。この初期段階では、「どの組織や事業部がパイロット運用を担当するか」を決めることが非常に重要です。その後、スコープを徐々に拡大していく形で進めるのが一般的です。
SCPシステムの導入プロセス プロジェクトの発足
プロジェクトの進め方について説明しますと、まずはプロジェクト化が必要です。すでにSCM部が存在している場合は、その部門が中心となってプロジェクトを組織すると良いでしょう。ただし、プロジェクトの成功において最も重要なのは、「プロジェクトリーダー」の存在です。
プロジェクトリーダーは、複数の部門を巻き込みながら進める役割を担うため、コミュニケーション能力が非常に重要です。また、部分的な問題解決だけでなく、サプライチェーン全体を俯瞰的に把握し、将来の方向性を見極める能力が求められます。そのようなスキルを持つ人材が社内にいる場合、プロジェクトの成功率は大きく向上します。
SCPシステムの導入プロセス 現状分析
プロジェクトが正式に発足した後、まず「現状分析」を行います。SCM部が既にあれば、ある程度のデータや知見が蓄積されているかもしれません。しかし、新しくSCM部門を設立する場合や、プロジェクトリーダーが新たに選任された場合は、より詳細な現状分析が必要になります。
自社がどのように需給計画を立てているのか、正確に把握できていないケースもあります。特に、買収した子会社や関連会社がどのような方法で発注を行っているのか、本社が知らないという場合も少なくありません。また、プロジェクトチーム内の調達部門、生産部門、営業部門などが、必ずしも円滑に連携しているとは限らないことも多いです。そのため、お互いの課題や問題点を共有することが非常に重要になります。
一つの方法として、「ワークショップ形式」で現状分析を行う手法があります。例えば、川喜田二郎氏が提唱するようなKJ法を使って、ワークショップを開催して現状を共有し、課題を明らかにする方法です。また、もう一つの手法として、「ヒアリング形式」で関係者から直接問題点を聞き出す方法も考えられます。いずれの場合でも、現状での問題点とその解決策をプロジェクト内で合意することが重要です。
次に、「現状の計画」がどのように進められているのかを把握することが必要です。図の左部分が問題の分析にあたるならば、右部分は実際の業務プロセスを確認するフェーズに該当します。新しい業務プロセスを設計する際、現行のやり方との違いを把握していないと、「これまでとどう違うのか?」と現場から疑問が生じることが多いため、現状分析を徹底することが非常に重要です。
SCPシステムの導入プロセス 全体構想の合意
また、現状分析をもとに「ロードマップ」を策定することも大切です。一度に理想の状態を実現するのは難しいため、段階的に取り組む計画を立てる必要があります。ここでは「グローバルS&OP」という概念について触れていますが、これは単なるオペレーショナルな視点ではなく、サプライチェーンを経営や売上に貢献させるための仕組みを意味します。このような高度化を目指す際、何をどのように進めるか、タイムラインをどう設定するかといった計画を立てることが重要です。
ここで示している例は一つのモデルに過ぎませんが、以下のような枠組みで検討すると良いでしょう。
・目標:何を達成するのか
・取り組む内容:どの課題に取り組むのか
・関係部署:どの部門や関係者を巻き込むのか
・システム化:どの部分をシステム化するのか
・期待効果:具体的にどのような成果を見込むのか
・評価指標:成果をどう測るのか
SCPシステムの導入プロセス 組織・業務プロセスの整備
これと同時に、「組織や業務プロセスの整備」も必要です。たとえば、需給調整の専門部署がない場合は、それを新たに設置する必要があります。言葉で言うのは簡単ですが、実際には大変な取り組みです。誰にその役割を担ってもらうのか、どのように組織を再編するのかといった課題を検討する必要があります。このような組織改革は会社全体の大きなテーマとなるため、経営者の意思決定や関与が重要です。
さらに、これまで曖昧だった「役割と責任」を明確化することも重要です。たとえば、在庫の管理責任を誰が負うのかといった具体的な点も含めて設計する必要があります。これらを大きなプロセスとして整理しながら進めることが、プロジェクト成功への鍵となります。
SCPシステムの導入プロセス システム選定・検証
次にシステム選定と検証のプロセスに移ります。この段階では、多くの企業がWebサイトで情報収集を行うと思います。また、RFI(情報提供依頼書)をベンダーに送付して、情報を集めることも一般的です。その後、RFIを提出したベンダーの中から数社を選び、提案依頼書(RFP)を出します。これに基づいて、ベンダーから「このようなSCPシステムを提案します」という内容のプレゼンテーションを受けることになります。そして、場合によってはコンペ形式で評価を行うこともあります。
しかし、それだけでは不安が残る場合、自社にそのシステムが本当に合っているのかを確認するために、PoCやPoVを実施することがあります。これらの検証は、主にシステムベンダーと共同で進めるケースが多いです。
SCPシステムの導入プロセス 導入プロジェクト
SCPシステムが正式に決定した後、いよいよ導入プロジェクトが本格的に始まります。
一般的なプロセスとしては、要件定義を行い、設計、カスタマイズ、追加開発、テスト、試験運用と進めていきます。現在、完全にゼロから開発を行うケースはほとんどなく、何らかのパッケージソフトウェアを採用するのが一般的です。そのため、パッケージソフトウェアに対して「自社でどのように使いたいのか」「どこをカスタマイズする必要があるのか」を明確にすることが重要です。ただし、カスタマイズや追加開発が含まれる場合、プロセスは長期化する傾向にあります。
SCPシステムの導入プロセス パイロット運用
次に、パイロット運用についてです。多くの場合、一つの事業部を選定してパイロット運用を行います。この際、どの事業部をパイロット運用に選ぶべきかを慎重に検討する必要があります。たとえば、以下のような条件を満たす事業部が適していると言えます。
・業績が伸びており、将来の需要を早期に把握する必要がある事業部
・事業部長や管理職がSCMに理解を持ち、積極的に関与している
・海外拠点や生産拠点があり、需要変動が大きく、需給調整が課題となっている事業部
一方で、会社全体の経営にあまり影響がない事業部を選んでも効果が限定的になるため、ある程度のインパクトが期待できる事業部を選ぶべきです。例えば、売上が伸びているが需要変動が激しく、供給が追いついていない事業部などが良い候補となります。
SCPシステムの導入プロセス スコープ拡大・高度化
パイロット運用が完了した後は、その成果をもとに運用を他の事業部や拠点へ段階的に拡大していきます。具体的には、1段階目、2段階目、3段階目といった形で段階的に広げていくことが一般的です。このような拡大や高度化のプロセスは、プロジェクト初期に策定した全体構想である程度決まっている場合が多いですが、運用の進捗に応じて構想を見直すことも必要になるかもしれません。
このように、計画を練り直しながら進めることで、SCPシステム導入とサプライチェーンの高度化を成功へと導いていきます。
SCPシステムの導入プロセスとプロジェクト体制
ここまでお話しして、「これを自社だけで進めるのは非常に大変そうだ」と感じられた方も多いかと思います。そのため、よく行われる方法として、外部コンサルタントを活用するケースがあります。また、ソフトウェアベンダーの協力も非常に重要です。もし自社で対応が難しい場合には、外部コンサルタントに支援を依頼するという選択肢もあるでしょう。
もちろん、潤沢な予算がある企業であれば、外部コンサルタントにある程度依存してプロジェクトを進めるのも一つの方法です。しかし、私たちの経験から言えるのは、自社が主体性を持つことが最も重要だということです。具体的には、自社のプロジェクトオーナー(PO)やプロジェクトマネージャー(PM)が責任を持ち、主体的にプロジェクトを推進する姿勢が成功の鍵となります。
また、関係部署を巻き込むことも極めて重要です。関係部署間で利害の衝突があることはよくあります。例えば、営業部門は「在庫を多く持ち、いつでも顧客に販売できる状態を維持したい」と考える一方で、生産部門は「生産効率を最大化したい」「稼働率を高めたい」といった異なる視点を持つことが一般的です。これらのコンフリクトを解消し、プロジェクトを円滑に進めることが重要です。したがって、自社の主体性こそがプロジェクト成功の最も重要な要素だと私たちは考えています。
ここまで、プロジェクトの「正攻法」としての進め方をご紹介しました。ここで疑問が出てくるかもしれません。「こんなに多くのステップを踏むと、一体どれだけのコストがかかるのか」「これには何年もかかるのでは」「経営陣の理解を得るのは難しいのでは」といった懸念を持たれる方もいらっしゃるでしょう。
確かに、その通りです。ただ、ここまでお話しした内容はどれも重要であり、間違いではありません。一つ一つが大切なステップであり、必要不可欠なものです。しかし、「どこまでやるか」を決めることが、プロジェクトを成功させる上で非常に重要なポイントになります。
特に日本では、完璧を求め、失敗のないプロジェクトを目指す傾向があります。しかし、完璧を求めすぎると、先ほどのプロセスを進めるのに3年、4年、場合によっては5年かかることもあります。その間に、世界は大きく変化し、組織体制も変わる可能性があります。これでは時間をかけすぎではないか、と考えられる場合もあります。
そのため、私たちとしては、企業の規模や方針によって柔軟に進めるべきだと考えています。必ずしもすべてを完璧に進める必要はありません。もし、私たちの提供する「PlanNEL」というSaaS型のSCMソリューションを活用したいと考える企業があれば、それを活用して進める方法もあります。今日はその一例として、PlanNELの活用方法について最後にご紹介したいと思います。
SaaS型SCMソリューション「PlanNEL」
PlanNELは、SaaS型で柔軟かつ迅速にSCMシステムを構築できるサービスです。
これまで私たちが導入を支援してきたお客様は、最低でも年商3,000億円以上、大きい企業では兆を超える規模の企業がほとんどでした。これらのお客様に対しては、先ほどお話ししたようなプロセスを経てシステム導入を進めてきました。しかし、年商数百億円規模の中堅企業では、同じようなプロセスをすべて実施するのは難しいと感じられるケースも多いと思います。SCMシステム構築の段階で疲弊しないように、なるべく簡単に導入を進めたいというご要望もよく伺います。
そういったニーズに応えるために、私たちは2022年からSaaS型サービスとして「PlanNEL」の提供を開始しました。このPlanNELは日本初のSaaS型のSCMサービスで、弊社の本社がある韓国で開発されたものですが、日本のお客様に焦点を当てて設計されたサービスです。
主な機能としては、需要予測、在庫計画、販売計画、補充計画、需給計画などの機能を提供しております。また、初期設定、導入支援、運用サポートまでを弊社が提供しており、導入から運用までの負担を軽減する設計となっています。
導入プロセスについてですが、従来の「しっかりとした正攻法」に基づくプロセスを簡略化しつつ、世界標準のSCMの概念に基づいて構築されています。「世界標準」と聞くと、「それでは自社の特徴が反映されないのでは?」という懸念を持たれる方もいらっしゃいます。しかし、SCMにおける需要と供給の管理という大きな枠組みでは、特に個性を持たせる必要はないと考えています。
需要と供給の管理自体は、ある程度のベストプラクティスを適用できる領域です。製造工程や商品特性に基づく細部のプロセスを管理する仕組みでは調整が必要な場合もありますが、需給計画という粒度で見れば、世界標準の枠組みで十分対応可能です。そのため、まずはこのPlanNELを試しながら、構想やアプローチの合意、組織設計などを進めるのが効果的ではないかと考えています。
また、このプロセスの中で、SCMにおける世界標準を学ぶ機会も得られます。例えば、アメリカの「ASCM(Association for Supply Chain Management)」という組織が提供する教育プログラムを活用する方法もあります。この団体は日本にも事務局があり、学習を進める環境が整っています。
このように、実際のシステムを経験しながらプロジェクトを進めることで、通常半年ほどでシステムを稼働させることが可能になります。
SCMソリューションを活用した業務イメージ(例)
業務イメージとしては、需給担当者が需要予測、販売計画、補充計画を行うという流れになります。このプロセスにおいて、人が主に関与するのは「需要計画」や「販売計画」の部分です。この需要計画さえしっかり立てれば、後続のプロセスではシステムが自動化されており、人が手を加える必要はほとんどありません。
では、具体的なプロジェクト事例を一つご紹介します。この事例は、年商500億円規模の食品容器や小型調理家電を製造するメーカーのものです。この企業はグローバルに11か所の販売拠点と21か所の製造拠点を持っています。本事例では、グローバルの3か国を対象にプロジェクトを進めました。
PlanNEL導入プロジェクト事例 プロジェクトの目標
この企業では、経営陣がSCMの重要性を強く認識しており、次のような目標を掲げてプロジェクトを進めました。
1. 計画に基づいた業務の構築
2. 需要計画に基づいた在庫および補充計画の作成
3. 補充計画を参照して購買発注量を決定
4. 全社統一の基準方針(ポリシー)や運用基準に基づいた需要計画の作成
5. 未来の予測在庫を可視化し、それを活用してオペレーションを改善
PlanNEL導入プロジェクト事例 プロジェクト概要
このプロジェクトは、6ヶ月で完了しました。具体的なスケジュールは以下の通りです。
・最初の2ヶ月:分析および設計を実施。この設計はゼロからではなく、主に業務設計に重点を置きました。現状分析や全体構想の策定、実行計画書の作成も行いました。
・次の2ヶ月:PlanNELのデータ入力を完了し、単体テストを実施しました。
・最後の2ヶ月:ユーザー教育に時間をかけ、統合テストを経てシステムを稼働させました。
このように、非常に効率的なプロセスで導入が進められました。
PlanNEL導入プロジェクト事例 業務スコープ
プロジェクトの業務スコープは以下の3つに大きく分けられます。
1. 需要計画
2. 在庫計画
3. 補充計画
これらの計画に基づき、「誰が何を担当するのか」を明確にしました。具体的には、以下のような役割分担を設定しました。
・デマンドプランナー(需要計画担当者):営業や販売部門の担当者が中心となり、需要計画を作成
・法人別デマンドプランナー:販売法人ごとに需要計画を担当
・セールス担当者:必要なデータを提供し、計画作成を支援
また、在庫計画では、法人別や製品クラス別に「安全在庫基準」や「ポリシー」を設定しました。このポリシーやパラメータは、各拠点や製品ごとに柔軟に設定できるようにしました。
さらに、この計画を基に、生産量や発注量を具体的に算出する仕組みを構築しました。
PlanNEL導入プロジェクト事例 導入による改善点
このプロジェクトでは、以下のような成果が得られました。
・導入前は、国ごとに異なる方法で需要計画を作成していましたが、統一された基準により計画の妥当性評価が合理的に行えるようになりました
・未来の予測在庫が可視化されることで、オペレーションの効率化が図られました
・経営陣と現場の間での連携が強化され、需給調整がスムーズになりました
この事例は、短期間で効果を上げた成功例として、特に参考になるのではないでしょうか。
例えば、強気な販社が「もっと需要がある」「たくさん売れる」といった計画を立てたものの、結果的にその計画が実現しなかった、ということも以前はよくありました。しかし、現在は同じプラットフォーム上で計画を作成するため、例えば「売上が先月より下がっているのに、今月の売上計画を不自然に高く設定している」といった場合に、すぐに気付くことができます。同じ画面を見ながら、「この販社ではこういう状況だね」「この国ではこうだね」と画面を指差しながらディスカッションできるようになった点は大きな進展です。
また、需要計画はAIを活用したり、統計的な手法を用いて作成したりすることが可能です。もちろん、人間が計画を立てる場合もありますが、AIによる需要予測は参考値として活用できます。これにより、以前は需要計画と購買・生産計画が別々に管理されていたものが、現在では全社統一の需要計画に同期した供給計画を作成できるようになりました。
さらに、需要と同期しない購買発注を行うといった事例も減少しました。以前は担当者の裁量で「需要がないけれど念のため発注しておこう」といった判断が行われることがありましたが、こうした無計画な購買がなくなり、より効率的な運用が実現しました。
PlanNEL導入プロジェクト事例 運用のポリシー・ルール定義
基準情報(マスターデータ)についても、以前は手動で頻繁に更新されていましたが、現在はポリシーに基づいた更新が行われています。この結果、どのデータを管理すべきかが明確になり、マスター管理が統一されました。また、以前は短期計画しか立てられなかったのが、現在では長期計画の作成も可能になりました。
最も重要だったのは、需要計画や補充計画を作成する際に「どのようなルールやポリシーで行うか」を明確に決めたことです。弊社のコンサルタントがこのプロセスに関与し、必要な決定事項をテンプレートとして提供しました。このテンプレートを基に迅速に意思決定を進めたことで、プロジェクトのスピードが大幅に向上しました。
PlanNEL導入プロジェクト事例 短期導入の成功要因
短期間でのシステム導入を成功させた要因を以下にあげます。
1. マネジメントの、プロジェクトを前に進める強い意志とリード
プロジェクトを前に進めるための明確な意志と指導が重要でした。
2. 関係者が同じ目標、意識を持って進める
従来のやり方に固執せず、新しい目標に向けて意識を統一することができました。
3. 従来のやり方にこだわらない。PlanNEL標準のプロセスを受け入れる
「以前のやり方」「同じExcelが使いたい」など、過去に固執することをやめ、標準プロセスを受け入れる姿勢が重要でした。
4. 最初から完璧を目指さない。システムを調整しながら、目標に近づける
特に日本の企業では、失敗を恐れるあまり「100点になるまで次に進めない」といった傾向があります。しかし、それではスピードが失われます。結果が少し意図と異なっても、それを「失敗」として大騒ぎせず、次に活かす柔軟性が必要です。「まずは70点くらいでいい」「60点でも構わないから次に進めよう」という柔軟な考え方が大切です。
5. SaaSなので、お試しできる環境をクイックに提供できる
SaaS型のシステムであれば、簡単に試用環境を提供できます。データさえ入力すれば、システムを実際に体験しながら議論を進められるのも大きなメリットです。
6. 実システムを体験しながら議論を進めることができる
SCPシステムはシミュレーションが基本です。一度の試行で正しい答えが出なくても、それで「0点」というわけではありません。パラメータを何度も変更し、プロジェクトメンバーで議論をしながらシミュレーションを繰り返すことで、最適な計画を選び出せば良いのです。そ
7. プロジェクトメンバーの密なコミュニケーション
さらに、プロジェクトメンバー間で密なコミュニケーションを図ることも非常に重要です。プロジェクトをスムーズに進めるためには、チーム内での情報共有と連携が不可欠です。
これで私の話は以上となります。本日は「SCPシステムの構築プロジェクトの進め方」についてお話しさせていただきました。私たちが提供する「PlanNEL」についてはあまり詳しく触れることができませんでしたが、もっと知りたい方がいらっしゃれば、ぜひお問い合わせください。