AIによる需要予測とは

将来の需要を予測し、生産数や在庫数をコントロールすることができれば企業の利益率は向上します。マッキンゼーのレポートによると、予測精度が10~20%向上すると在庫コストが5%低減し、収益が2~3%増加すると言われています。(McKinsey & Co, Notes from the AI Frontier, April 2018)

昨今のAIブームで需要予測にもAIが活用されるケースが増えてきました。本記事ではAI需要予測を学術的、数理的な観点ではなく、ビジネス観点で企業の担当者向けに解説します。

AI需要予測とは

将来の生産量、仕入れ、販売数量など、ベテラン社員がこれまでの経験や勘や統計学の知識を用いて予測していたものをAIに置き換えることで予測精度を高めます。

ベテラン社員の予測には他のメンバーから得た情報に過去の経験や勘を加えて緻密な計算がされています。しかし、SKU数が数百、数千、数万になるとすべてのSKUに対して予測を行うことは難しくなります。また、有事の際にベテラン社員の知見を他のメンバーに引き継ぐことは難しく、属人的業務はリスクを伴い続けます。

AIによる需要予測では、「過去の実績データ」と、実績に影響を与えた天気、気温、販売価格などの「需要影響因子」をAIに学習させることで多数の製品に対して精度の高い予測を行うことができます。(図1)

図1.AIによる需要予測のイメージ

AIによる需要予測のイメージ

AI需要予測の予測モデルには、統計手法のほかに様々なアルゴリズムが採用されています。どの予測モデルの精度が高いかは、実際に予測を実施してみないと判断が難しいです。複数の予測モデルを検証し、最も適切な予測モデルを見つけ出すことをおすすめします。また、需要影響因子の影響度合いや、需要影響因子そのものの特定が需要予測精度向上のカギとなります。

加えて、製品の特性によってAI需要予測との相性が異なります。特に需要のバラツキが大きい製品は、AIで精度の高い予測をすることが難しいとされます。具体的にどういった製品であればAI需要予測に適しているかを見極めるには、こちらの記事を参考にしてください。

詳しくはコチラ 「需要予測に適した製品と適さない製品」

新商品/新製品のAI需要予測

新商品/新製品は実績データがないため需要予測が難しいとされています。新商品/新製品の需要予測手法としてもっとも利用されているのは、“類似品予測”です。新商品/新製品と近しい”類似品”を特定し、類似品の販売初期データや終売期データなどのライフサイクルごとのデータをAIに学習させることで需要予測を行います。また、類似品の特定をどのように行うかもポイントになります。例えば、お茶やジュースなどの清涼飲料水の場合、以下のような特定要因が考えられます。

例)
・商品カテゴリ :お茶、炭酸飲料
・商品属性   :高級志向向け、スポーツドリンク
・規格     :大きさ、形状

製品情報だけではなく、製品パッケージや販売時期、プロモーションの規模など複雑な要因が考えられます。厳密に特定するためには、影響を与えたと考えられる要因とデータが必要になるため、製品に関わるデータを普段から蓄積していくことが必要になります。

AI需要予測に必要な準備

AI需要予測を取り入れ、需要予測の精度が高まれば企業活動に大きな影響を与えます。ここでは、自社にAI需要予測を取り入れるために必要な準備を紹介します。

必要なデータ(実績データ)

・データ数

AIは、過去の販売実績を学習することで予測を行います。十分な精度の予測をするためには、予測元のデータの日または週ごとで3年分以上のデータが用意できることが望ましいとされています。データ数が少なくても予測を行うことはできますがその精度はあまり高くないものになるでしょう。

・データ種

AIに学習させるデータ種は販売実績や出荷実績など実際に売れた根拠となるデータとなります。基幹システムで管理されているケースが多いです。基幹システムでデータを保持していてもデータが整理されておらず、すぐに需要予測に取り組むことができないケースもあります。また、需要予測を行う対象が倉庫拠点ごとなのか、販売店ごとなのか、製品単位なのか、製品カテゴリ単位なのかによっても必要なデータが異なってきます。自社のデータの管理に問題がないか確認してみましょう。

・ノイズ(異常値、欠損値)

実績データの中には標準偏差の値から大きく外れた異常値や、販売が滞ることによる欠損値が混ざっていることがあります。例えば毎週安定的に100個販売されているものが、なんらかの要因によってある週では500個販売されたとします。その値をそのままAIに学習させると、予測結果は本来得たい結果とは異なったものになってしまいます。データをAIにインプットする前に異常値を標準的な値に揃えることが予測精度の向上に大きく影響します。

②需要影響因子の特定

精度の高いAI需要予測を行うためには需要影響因子が重要となります。たとえばビールであれば、夏場の暑い日やスポーツイベントがある日に需要が増えます。したがってビールの需要影響因子は気温やイベントだと考えられます。

よくある需要影響因子として需要影響因子は次のようなものが挙げられます。

・販売価格の変動情報(キャンペーン、特売など)
・降水量
・気温
・湿度
・カレンダー(月/週/曜日/平日/祝日)
・時間帯
・イベント情報
・インターネットでの検索数
・SNSへの投稿数
 他

どの需要影響因子が予測精度にどれくらい影響を与えるのかは製品によって異なります。AIに複数パターンの影響因子の組み合わせを学習させてシミュレーションを行うことで最も予測精度が高い予測モデルを構築します。

③人による意思入れ

AI需要予測はあくまでも予測であるため、計画の参考値でしかありません。需要予測結果を実際の計画に落とし込むためには、営業部が持っているお客様の内示情報やお客様の拡販状況など製品の実売に関わる生の情報を活用します。そういった情報をもとに需要予測結果の値に修正を加えることを”意思入れ”といいます。AI需要予測は非常に便利なものですが、予測精度を100%にすることでできないため、最後は人による意思入れが最も重要となります。

AI需要予測の結果をそのまま補充・発注数量に反映するか、意思入れを必要とするかは製品の特性によって異なります。見極め方は、先ほど紹介したリンク 「需要予測に適した製品と適さない製品」 を参考にしてください。

AI需要予測の精度評価

AIによる需要予測の結果の精度を測るための方法として、過去の需要予測を行いそれに合致する過去の実績とを比較する方法があります。例えば、2017年から2019年の3年間の実績データをAIに学習させ、2020年の需要予測を行います。(図2)

図2.需要予測の精度検証方法

需要予測の精度検証方法

2020年の需要予測結果と2020年の実績を比較します。精度を評価する指標として、二乗平均誤差(RMSE)、重み付き分位損失(WQL)、平均絶対パーセント誤差(MAPE)、平均絶対スケール誤差(MASE)、重み付き絶対パーセント誤差(WAPE)などがあります。データの在り方などによってどの指標があっているかが異なります。一般的にはWAPEが採用されているケースが多いでしょう。今回は予測モデル1つと実績の比較を例にあげましたが、AI需要予測導入の際は、複数の予測モデルを比較することをおすすめします

まとめ

AI需要予測を取り入れることができれば在庫削減や欠品に繋がるだけではなく、担当者の業務負担も大幅に減らすことができます。しかし、AI需要予測は万能ではないので自然災害や事故などは予測できません。人による意思入れも必要となります。自社に取り入れるためにはインプットとなるデータや最適な予測モデルの構築が必須になるためそれなりの手間はかかりますが、取り組む価値はあるでしょう。

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