その方法合ってる?需要予測の精度の測り方と指標
『需要予測』とは、一般的に自社の提供する製品やサービスの将来需要を予測するものです。昨今、SCM(サプライチェーンマネジメント)における『需要予測』は、販売量や出荷量を予測する手段として注目されています。
具体的には、対象製品が、来月どれくらい販売・出荷されるかを予測することであり、適切な需要予測を行うことは、発注/生産/調達計画等、あらゆる計画を立案する際に極めて重要なことと言えるでしょう。
しかし、これほど重要であることが明らかであるにも関わらず、従来の需要予測は決して精度が高いものではありませんでした。これまでの実績値を踏襲したり、経験・勘といった属人的なファクターを重視する傾向にあり、そういった不安定な要素が精度を低くする原因となっています。
では、精度の高い需要予測はどのようにすれば実現するのでしょうか。需要予測の精度とはどのようにして測り、その評価結果はどのように活用していくべきなのでしょうか。
精度の高い需要予測とは
従来の需要予測は、過去の数値、経験や慣例を重視しており、細かく数字を追いながら予測をすることは稀でした。しかしながら、昨今は世界中の企業で需要を奪い合う競争が激化しています。
そのため、需要予測の判断ミスは、ビジネスの機会損失や過剰在庫につながる恐れがあるのです。
企業の利益最大化のために、精度の高い需要予測が必須となってきています。
需要予測の手法
中小企業では、担当者の経験や勘などを重視して予測を行う慣例的で属人化した手法をとることも珍しくはありません。ただ、このやり方では、特定の担当者しか需要予測の方法が解らず、また、標準化がなされないために離職や退職によるリスクが生じてしまいます。こうした現状から、近年はデータを利用した予測を行う企業が増加してきました。
情報を基にした需要予測の手法として最近の主流とされているのは、以下の二通りです。
- 過去の実績を用いた統計的予測
過去の実績をもとにして、未来の状況を予測する方法です。
具体的には、算術平均法、移動平均法、指数平滑法などが中心となります。
一般的には「移動平均法」と「指数平滑法」が広く利用されていると言われています。
- AI・機械学習による予測
AIや機械学習による予測は、ビッグデータ等を活用して需要予測をする方法です。
経験や勘に頼らない予測が可能となりますが、機械学習にはさまざまなアルゴリズムがあるため、自社がどのような予測をしたいのか明確にしたうえで実施する必要があります。
担当者や専門家の情報・意見による予測もありますが、これらはその人の知見、経験を基に予測するしかなく、その精度には限界があります。
精度を高めるためのポイント
適切な精度評価で重視するべきポイント
一般的に需要予測は回帰モデルでの分析が多いため、回帰モデルの評価指標を用いて精度を測ります。その指標は予測結果と実績の乖離で評価することになり、予測結果と実績が近いほど精度が高いと言えます。
ただ、その精度をどうやって測るかで評価方法が適切でないケースが散見されます。製品特徴やトレンドやサイクルによりますが、高い精度での分析を行うには、少なくとも1年間の各月で予測した結果を評価する必要があります。
例えば、今年の1月時点で前年以前の実績で予測した1回限りの結果を評価するのではなく、4月時点、7月時点など、時期によって異なる場合の精度を複合的に評価するのが適切な評価方法と考えられます。
また、目的によって、予測期間は異なります。
一例として、
- 小売店の発注担当者:数日先
- 工場の週次生産計画担当者:2、3週間先
- 工場の月次生産計画担当者:2、3カ月先
- 輸入品の発注担当者は6カ月先
以上の例のように、目的や業種に応じて必要となる予測精度は変わってきます。
毎月、翌月の生産計画を立案している場合、当月の予測精度ではなく、当月・翌月・翌々月の先3か月間の予測合計の精度を評価することが望ましいでしょう。なぜなら、翌月の生産によって翌々月までの需要をカバーする必要があるからです。
そのため、実際のカレンダーに当てはめると、1月に実施した1月~3月の予測合計、2月に実施した2月~4月の予測合計…というような流れで評価を行うのが適切となります。
需要予測のための学習期間を何か月にするか?
何回分の需要予測結果を評価するか?
精度を高めるための要因として重要視すべきなのは、この二点です。
需要予測精度を高めるためのベストセレクト
これまでに解説した要素を複合的に考えると、需要予測の精度を高めるためには以下のような手法がベストセレクトだと考えられます。
- 同じ対象、同じ学習期間、同じ予測期間を複数の需要予測手法で予測します。
- 次に同じ対象で学習期間と予測期間を変えて複数回、需要予測を実施します。
- 2のそれぞれの精度評価結果のなかで最も精度がよいものをベストの予測結果とします。
予測手法を競わせ、サイクルや季節性を考慮した需要予測が精度を高めるうえで重要です。
精度を評価する指標とは
では、ここで『精度を評価する指標』について、いくつかを解説致します。
二乗平方根誤差(RMSE:Root Mean Square Error)
(=SQRT(SUM(対象期間の予測誤差の二乗値)/ 対象期間数))
(予測誤差×予測誤差)の平均値をルートした値です。値が0に近いと精度が高い、値が大きいと精度が低いと言えます。誤差が大きい月がひと月でもあると、二乗の影響で値が大きくなり評価が悪くなるため、大外しせず精度が安定しているものほど好評価となります。
平均絶対誤差(MAE:Mean Absolute Error)
(=SUM(対象期間のABS(予測誤差))/ 対象期間)
予測誤差の絶対値(符号を除いた値)の平均値です。「①平均誤差」と違う点は絶対値にしていることです。プラス、マイナス関係なく実績との差の平均値となります。
二乗平方根誤差と同様に、0に近いと精度が高い、値が大きいと精度が低いということになります。
この二指標はどちらもマイナスの値をプラスにすることを目的としており、統計などの世界ではRMSEの方がより一般的に使用されています。
平均誤差(ME:Mean Error)
(=SUM(対象期間の予測誤差)/ 対象期間数)
個々の予測の誤差(=予測ー実績)をそのまま期間平均したものを平均誤差(ME)といい、バイアス(偏り)とも呼びます。0より大きいと「全体的に予測より上目に外れている」、0より小さいと「全体的に下目に外れている」という予測の上振れ・下振れの偏り傾向がわかる指標です。
重み付き絶対誤差率 (WAPE)
重み付き絶対誤差率 (WAPE) は、観測値からの予測値の全体的な偏差を測定します。WAPEは観測値の合計と予測値の合計を取り、これら 2 つの値の間の誤差を計算することによって計算されます。値が小さいほど、モデルの精度が高くなるのです。
指定のバックテスト期間では、すべての時間ポイントとすべての項目の観察された値の合計がほぼゼロの場合、重み付き絶対パーセント誤差の式は未定義になります。これらの場合、Forecastは重み付けされていない絶対誤差の合計を出力します。これは、WAPE式の分子です。
MAPE
平均絶対パーセント誤差(MAPE)は、実際の値でなくパーセントで誤差の度合いを計測します。本質的にはMAEと同じですが、各データの絶対誤差が実測値(絶対値)で除算されているため、単位がパーセンテージとなっています。
パーセント表示のため、簡単に理解でき感覚的に活用することが可能です。
小さいほど精度が良く、100%以上も取り得る計測値となっています。
まとめ
需要予測は「正確には当たらない」ことを前提にするのがポイントであり、そのうえでプロセスを構築すべきです。
とはいえ、毎度結果と乖離した需要予測を行ってしまっては、ビジネスにまったく活用できなくなります。
そこで検討すべきことは、需要予測精度を上げる取り組みの実施です。
100%当たる予測は存在しなくても、その精度を0.1%でも上げることで収益の最大化が近づきます。
ここで大事なことは「意志入れ」であり、需要予測を前提として、計画に人為的な数値を落とし込んでいくことです。
予測をプラスかマイナスかで捉えるだけでは、需要予測を真に活用できているとは言えません。
プロモーションの成果、マーケティングの活動やプロセス、見込み案件を含めた営業的な要素など、様々な要因を踏まえた上で「意志」として数字を入れていく必要があります。
例えば、需要予測の結果、ある商品の下降トレンドが結果として出たとします。
そこで、その結果を信じて商品の撤退を決断するのか。
それとも、下降トレンドを見越して盛り返すための施策を打つのか。
どちらが有効な施策であるかの判断を行う際には、結果だけでなく意志入れによる数値も活用材料となります。
予測はあくまで予測と考え、需要予測の結果を次のプロセスでどう活用するかが肝要です。