需要予測に適した製品と適さない製品

AIの需要予測を取り扱っていますと、多くのお客様から「全てのお取り扱い製品の予測が自動化できる」という前提でお問い合わせをいただきます。残念ながら、需要予測は全ての製品に適しているとは言えません。

需要予測の精度は、複数の要素によって変動します。今回は需要変動率 と販売量を中心に、どのような製品特性をもったものが、需要予測に適しているのか、また逆に適していないのかを、4象限を使ってご説明したいと思います。

需要変動率と販売量による4象限

この4象限は縦軸に需要変動率、横軸に販売量を置き、製品特性を右下から時計回りに(Ⅰ)、(Ⅱ)、(Ⅲ)、(Ⅳ)にエリア分けしています。

(Ⅰ) 需要変動率が低く、販売量が大きい

(Ⅱ) 需要変動率が低く、販売量が小さい

(Ⅲ) 需要変動率が高く、販売量が小さい

(Ⅳ) 需要変動率が高く、販売量が大きい

製品特性に応じた需要予測方法

それぞれの象限についてご紹介していきます。

(Ⅰ)需要変動率が低く、販売量が大きい

このエリアは、AIによる需要予測も精度も出やすい、需要予測に最も適したエリアといえます。

大きな需要変動(コロナや消費税増税)等がない場合は、需要予測をそのまま活用することが想定できます。

企業として安定的な売上が見込め、かつ過剰在庫に陥るリスクも低いエリアになるため、欠品許容率を低く設定し、つまりは顧客へのサービスレベルを高く保つことで、機会損失を極力起こさない運用にすることが一般的です。

(Ⅱ) 需要変動率が低く、販売量が小さい

実績から見た場合の需要の変動は少ないため、(Ⅰ)と同様に需要予測の精度は出やすいものの、販売量が小さいため、実需要の増減により、将来的には需要予測の精度が下がる可能性ももったエリアです。

しかしながら、販売量が小さいことから、企業の売上へのインパクトは小さく、一般的に重点管理が必要とされるエリアとはいえません。需要予測を活用しつつも、欠品許容率は多少高めに設定し、在庫金額を抑え、過剰在庫化、不良在庫化も同時に防ぐ手立てをはかる運用をとる判断が取られることが多いです。

(Ⅲ) 需要変動率が高く、販売量が小さい

このエリアは需要予測の精度は極めて低くなります。

AIを利用しても需要予測の精度があがりにくいため、需要予測対象から外すことも多くあります。在庫運用としても欠品許容率は他と比べて高めに設定し、ある程度の在庫をもたせるに留めたり、受注発注方式にすることで在庫を持たない運用にし、不良在庫化を防ぐ判断がとられます。

(Ⅳ) 需要変動率が高く、販売量が大きい

需要変動率が高いため、需要予測の精度は上がらないものの、販売量が大きいため、欠品や過剰在庫が発生した場合、売上・在庫金額への影響が大きく、需要予測だけに頼らない、人の手による重点管理が必要なエリアとなります。
具体的な管理手段はどうなるのでしょうか。

例えば、「キャンペーンを予定している」という過去の実績からは読み取れない将来予測される変動が予定されているとします。これをAIの需要予測で行う場合、過去の類似するキャンペーン情報とその実績値を因子としてインプットすると、将来の需要予測に反映させることは可能です。

AIによる需要予測に組み込まない場合はどうするかというと、営業担当者やマーケティング担当者による売上見込を、需要予測の数量に“意思入れ”として増減を加えることで、需要予測の精度をあげることを行います。この方法は、キャンペーンに限らず、大口顧客の受注などの突発的な需要の変動に対しても有効です。

このエリアにある製品群は、キャンペーン、大口受注に限らず、様々な要因で需要の変動が起こっていることが想定されるので、過去の変動要因を把握し、将来の情報を取り込む仕組みをとるようにすると、在庫管理の品質はより安定して行きます。

このように現場に近い営業部門やマーケティング部門から、実績から読み取れない需要の変動要因を吸い上げ、需要予測に取り込んでいくことは、AIによる需要予測を導入しても、継続して必要な社内プロセスになります。

製品の特性を理解して需要予測を効果的に活用しよう

以上、各製品特性でどのように需要予測を活用し、在庫の運用を検討するかご理解いただけたでしょうか。

最後にまとめとして、改めて強調したいことをお伝えすると、AIによる需要予測は、需給ご担当者の工数を大きく下げ、需要予測の品質をあげることができます。ただ、製品特性をみて、需要予測じたいの向き不向きの判断、在庫や発注の運用設定、また過去の実績からは読み取れない情報については、部門を超えて入手するプロセスを持つことは、引き続き需給ご担当者にとって重要な役割になります。AIの需要予測と上手につきあうことで、高い品質のSCMモデルの構築を目指していただければと思います。

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