2021.10.30

SCMとは

SCM(サプライチェーンマネジメント)という言葉は広く知られるようになりましたが、SCMとは、と聞かれたら正しく説明できるでしょうか。
今回は基本的なことからSCMについてご紹介いたします。これからSCMを学ぶ方は参考に、既にご存知の方もおさらいで本記事をご活用いただければ幸いです。

SCMとは

SCMという考え方は、コンサルティング会社であるブース・アレン・ハミルトンのK.R.オリバーとM.D.ウェバーが、1982年に初めて用いたとされています。

SCMのサプライチェーンとは、直訳すれば「供給連鎖」といい、製品の原材料が調達されてから最終消費者にモノが行きつくまでのプロセスのことを指します。

SCM(サプライチェーン・マネジメント)とは、供給事業者から最終消費者にモノが行きつくまでのプロセスを統合的に見直し、全体プロセスの効率化・最適化を実現するための経営管理手法です。

具体的には、「原材料・部品調達 ⇒ 加工・生産 ⇒ 物流・流通 ⇒ 販売」というプロセスの連鎖のことをいいます。一方で、サプライチェーンに関わる事業者の立場から見れば、「サプライヤー ⇒ メーカー ⇒ 倉庫事業者 ⇒ 物流事業者 ⇒ 卸・小売事業者 ⇒ 最終消費者」となります。(図1)

図1.サプライチェーンマネジメントのイメージ図

サプライチェーンマネジメントのイメージ図

また、米国のSCC(サプライチェーンカウンシル)*という、SCMに関するフレームワーク、ナレッジの研究、収集をする非営利組織では、SCMを以下のように定義しています。

「価値提供活動の初めから終わりまで、つまり原材料の供給者から最終需要者に至る全過程の個々の業務プロセスを、一つのビジネスプロセスとしてとらえ直し、企業や組織の壁を越えてプロセスの全体最適化を継続的に行い、製品・サービスの顧客付加価値を高め、企業に高収益をもたらす戦略的な経営管理手法」

*SCC:現在はASCM(Association for Supply Chain Management)というアメリカ・シカゴに本部を置く、サプライチェーン・マネジメント(SCM)の専門家団体

SCMが注目されている理由

近年、SCMはこれまでになく注目され、各社が経営課題として捉えてSCMの見直し、構築に取り組んでいます。なぜ今、SCMが注目されているのでしょうか。

サプライチェーンのグローバル化

コストカットや利益拡大を目的として、世界中に調達先・生産拠点・販売拠点を構えることが当たり前になっています。グローバルサプライチェーン上の各プロセスの情報を一元的に管理して全体最適ができないと、企業としての競争力が頭打ちになります。このような企業を取り巻くサプライチェーンのグローバル化が、SCMが注目される大きな理由です。

環境の不確実性

新型コロナウィルスや米中貿易摩擦、自然災害などサプライチェーンが寸断されるリスクが様々な形で明らかになりました。その度に企業は自社のサプライチェーンを見直すことが重要課題としてあがります。ですが、サプライチェーンを見える化できていないと状況把握に時間がかかり、対応策の幅にも影響します。また経産省発行の「2020年版ものづくり白書」のなかでも、今後こうした予測不能な環境変化が起きたときに、どのようにして企業活動を継続するかが日本の製造業の大きな課題であると言及されています。

消費者環境の変化

インターネットと物流網の発達によりAmazonや楽天市場をはじめとしたECが急速に普及し、新型コロナウィルスが大きな追い風となって利用度をさらに高めました。特に日本は世界に比べて配送の正確さとスピードが重視されます。また、消費者ニーズの多様化に伴い、多品種少量生産が進み、膨大なSKU数になっている企業も多いのではないでしょうか。その結果、需要予測や販売計画と実績の乖離が発生し、企業全体の生産性の低下につながっています。

SCMがビジネスにもたらす影響

SCMに取り組むことで経営にも多くの好影響があります。

調達・計画リードタイムの短縮

調達先や工場の能力を把握、連携することで調達計画や調達にかかるLTを短縮することができます。

需要予測精度の向上、在庫の最適化

SCMによって各プロセスの見える化、一元管理化をすることで、需要予測の精度を向上し、調達数と在庫数を最適化することができます。

需要変動への対応

サプライチェーンの各プロセスの情報を集約することで、突発的な需要変動やサプライチェーン寸断時に迅速に対応することができます。

SCMの世界標準化

SCMはグローバルで行われるものという前提から、どこの国のどの企業でも共通した概念でやり取りができるために、SCMのプロセスや用語は世界で標準化されたものが利用されています。

SCMの課題

SCMを自社で実践するにはどうすればよいでしょうか。企業がよくぶつかる課題をあげてみます。

組織の壁

SCMを実践するためには、全体最適を目的として会社間・組織間を横断する必要があります。1企業内でも、複数部署を跨いだ大規模な取り組みになります。どの組織にもそれぞれの利害や組織独特のルールがあり、それらが壁となります。各組織はそれぞれのKPIを達成するために個別最適化され、時間をかけて改善してきた現在の業務のプロセスをダイナミックに改革する必要があります。

データがない、整っていない

SCMはモノとお金と情報を結び付けて一元的に管理します。そのためには組織内の情報が適切に管理されている必要があります。そもそものデータがトラッキングできていないこともありますが、データがトラッキングできていたとしても、各組織それぞれでシステムを導入、運用しているうちに全体最適の視点が失われ、マスタがワンナンバー化されていないケースがあります。

ソリューションのコスト

SCMを実践する上でシステムは必要不可欠となります。昨今はテクノロジーの発達によりAIによる需要予測が注目されています。コンサルティングファームや国内SI、外資ベンダーなどSCMソリューションの選択肢は多くありますが、共通して費用が高額であることが多いです。システムライセンス費用だけでなく、コンサルティング費用やカスタマイズ開発費用が発生し数億~数十億円になることも珍しくありません。加えて、導入期間も長期になるため、稼働したころにはビジネス環境が変化し費用対効果が合わなくなるリスクもあります。

強力なリーダーシップ

これまで述べたように、組織間の壁を越え、今までのやり方を見直し、大きな投資を伴うため、組織を牽引するリーダーがいなければ実現できません。海外ではAppleのティム・クックを筆頭にSCM領域出身の経営リーダーが有名ですが日本だとあまり見かけません。リーダーの不在が、日本のSCMが遅れていると言われることにつながっているかもしれません。

SCMとERPの違い

ERP(Enterprise Resource Planning)パッケージの中にSCMが含まれていることが多く、どちらがどの業務領域をカバーしているかあまりピンとこない方もいると思います。それぞれのパッケージに含まれている1つ1つのシステムを見ると両者の違いが分かりやすくなります。ERPは、企業全体のリソースを最大活用するために、企業資源の管理を行うという目的があり、会計システム、調達管理システム、受注管理システム、人事管理システムなど実績を管理するシステムで構成されています。SCMが文字通りサプライチェーン上の見える化と全体最適化を行うのに対して、ERPは全社のリソースの見える化と全体最適化を行うという違いがあります。また、SCMは、計画系と呼ばれるSCP(Supply Chain Planning)と実行系と呼ばれるSCE(Supply Chain Execution)に分かれ、サプライチェーンの最適化を実現するために特化した機能を持っています。

SCPとSCE

SCMの根幹となるのがSCPです。SCPは予算計画からはじまり、将来どれくらい商品が売れるかを予測する需要予測、それに営業が捉えている内示など顧客の情報を合わせて立案される販売計画、販売計画を加味した安全在庫や発注点といった在庫基準、工場の制約や能力を加味した生産計画などで構成されます。一方でSCEはSCPで立てられた計画をもとに発注、生産依頼などを行います。(図2)

図2.SCPとSCMの関係

SCPとSCMの関係

まとめ

SCMと聞くと物流やロジスティクスの概念だと捉えられていることが多いですが、本当はもっと広い範囲を指します。また、SCMには世界標準があるということもあまり知られていません。企業活動を最も効率化するためにSCMという考え方が発明され、その形は約40年前と大きく変わっていません。SCMを正しく理解し、リーダーシップをもって取り組むことが成功の秘訣と言えます。

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