自社にSCMシステムは必要か?投資対効果から考える、失敗しないための意思決定を学ぶセミナー|SCMセミナーレポート
ザイオネックスでは、SaaS型SCMシステム「PlanNEL(プランネル)」とコンサルティングサービスの提供だけではなく、SCM(サプライチェーンマネジメント)に関連するセミナーも開催しております。今回は、2026年7月7日(火)に開催した「自社にSCMシステムは必要か?投資対効果から考える、失敗しないための意思決定を学ぶセミナー」のレポートを公開いたします。
為替レートの変動や国際紛争、天災、人手不足に伴う物流問題など、メーカーを取り巻く環境は日々変化しています。このような不確実な時代を乗り切るためには、経営の意思決定を早めることが重要であり、その一つの解決策として、SCMシステムの導入を検討される企業が増えております。
しかし、SCMシステムを初めて導入検討する企業のご担当者様からは、「そもそも今の業務規模で、自社にシステムを導入する必要があるのか」「導入した際の費用対効果(ROI)やKPIを、どのように設定すれば良いかわからない」「現場としては導入したいが、システム導入の経験がなく、社内や経営陣の説得をどう進めればよいか不安」のようなお悩みをよくお聞きします。
そこで本セミナーでは、SCMシステムの導入を失敗させないために事前に考えておくべき判断基準や、社内で議論を前に進めるための具体的な考え方・意思決定のポイントを解説いたします。
目次
なぜ今、オペレーション競争力が企業価値を左右するのか
本日は、「SCMシステムの投資効果」というテーマでお話いたします。
まず初めに、「なぜ今、オペレーション競争力が企業価値を左右するのか」という点について触れていきます。これを語る上で、かつて「モノづくり立国」と呼ばれた日本の競争力が、なぜここまで低下してしまったのかをお話ししなければなりません。

その理由として、近年インターネットの普及によって世界中に情報が行き渡り、消費者が世界各地のメーカー情報を容易に得られるようになったことがあげられます。それに伴い、「欲しいものが、欲しい時に、欲しい価格で届く」という当たり前のことが、より一層重要になってきました。つまり、「製品そのものの競争力」以上に、「オペレーション競争力」が問われる時代になっていると考えています。
残念ながら、今や欧米のホテルや一般家庭で日本の家電を見かけることはほとんどなくなってしまいました。自動車産業でさえも、韓国製などに置き換わっていると感じさせられます。これは私個人の感覚だけでなく、実際のデータにも明確に示されています。

この図は、スイスの国際経営開発研究所(IMD)という機関が毎年発刊している「世界競争力年鑑」の資料から転載したものです。IMDは、「国が企業活動を通じて持続的に価値を創出し、国民の豊かさを高めるための環境能力」を4つの分類要素と20のファクターで評価しています。
1990年以降の日本の総合順位の推移を見てみると、かつて1位だった日本の競争力は、この35年間の間に35位まで転落してしまいました。
最新の総合ランキングを見ると、世界1位はスイス、続いてシンガポール、香港、デンマークといった国々が上位を占めています。アジア太平洋地域の14カ国中で見ても日本は10位という結果であり、アメリカ(13位)、中国(16位)、韓国(27位)と比較しても厳しい状況にあります。
では、一体何が日本の競争力低下を招いたのでしょうか。IMDの評価基準である4大要素(経済状況・政府の効率性・ビジネスの効率性・インフラ)の順位推移を見てみましょう。

私が特に着目しているのは、2001年以降の推移です。日本の順位はもともと飛び抜けて高かったわけではありませんが(42位前後)、それが2025年の最新データにおいてさらに低下している点が非常に懸念されます。
「インフラ」に関しては、日本は比較的高い評価を得ていると言われていますが、先ほども申し上げた通り、最も懸念されるのが「ビジネスの効率性」です。これは、「企業が革新的かつ収益性を保ち、社会的責任を果たす環境が整っているか」を評価する要素です。日本の現状を見ると、生産性や経営手法・マネジメント、そして価値観や企業文化といった部分が弱まっているのではないかと心配になります。
また、「政府の効率性」についても、行政のデジタル化が進んできているとはいえ、地方によって対応にばらつきがあるなど、依然として課題が残っていると感じています。
自社のSCM成熟度をセルフチェック
さて、ここから本題に入ります。自社にSCMシステムが必要かどうかを判断する前に、まずは「サプライチェーンマネジメントの成熟度」についてお話いたします。
皆様も「自社が今、SCMシステムを必要とする段階にあるのか」、以下の問いかけを自社の状況を踏まえて考えてみてください。
- 部門ごとに個別に計画を作成している
- 在庫(過多・不足)の理由が説明できない
- 生産計画の変更が頻繁に発生する
- KPIが部門ごとに異なっている
- 需要充足率や欠品発生の可能性が即座に把握できない
- 需要予測などの業務がExcel中心になっている
このような状態に当てはまる項目はありましたでしょうか。
誤解して欲しくないのは、「Excelを使っているから悪い」「手作業だから悪い」というわけではないということです。大きな問題が起きておらず、合理的に事業が運営されているのであれば、必ずしもSCMシステムを導入する必要はないと考えています。
そこで次からは、SCMシステムが「必要な企業」「必要でない企業」について、10個の観点から見ていきたいと思います。

SKU数
数万から数百万ものSKUを抱えている企業では、もはや人手による管理は困難であり、SCMシステムが不可欠と言えます。一方、数十SKU程度に留まる場合は、システム化の必要性はそこまで高くないかもしれません。
需要変動の大きさ
需要の変動幅は非常に重要な要素です。季節変動や繁忙期の影響を受けやすく、新製品の投入が多い企業では、手作業での管理限界を超えるためSCMシステムの導入が推奨されます。逆に、需要が比較的安定しており、定番品が中心の企業であれば、SCMシステムなしでも対応できる場合があります。
生産方式
見込み生産や混合生産を行っている企業は、先を見越した計画管理が求められるため、SCMシステムがある方が圧倒的に業務がスムーズになります。一方、完全受注生産が中心の企業では、SCMシステムの必要性は相対的に低くなります。
生産拠点の規模と数
複数の工場や海外拠点を持ち、工場間をまたいでモノが生産・移動されるような環境では、全体を可視化するSCMシステムが必要です。しかし、工場が1箇所のみで全体の状況が把握しやすい場合は、必須ではないでしょう。
調達の複雑さ
サプライヤーの数が多く、海外調達を広く行っている場合はSCMシステムによる管理が求められます。調達先がごく一部に限られている場合は、導入を見送っても問題ないかもしれません。
在庫の拠点・品種数
多拠点に多品種の在庫を抱えている企業にはSCMシステムが必要ですが、拠点も在庫点数も少ない場合は、そこまでの必要性はないでしょう。
計画変更の頻度
需要の変動に伴い、頻繁に計画変更が発生する企業では、SCMシステムがないと迅速な計画立案が追いつかず、大変な労力がかかります。
部門間の連携体制
営業、生産、調達、物流など、役割ごとに部門が細かく分かれており、さらに拠点が遠隔地に分散している場合、電話やメール、チャットでのやり取りが増大し、調整業務が非常に複雑化します。このような場合はSCMシステムによる一元的な情報共有が有効です。一方、小規模かつ少人数で、口頭ですぐに意思決定できる環境であれば、SCMシステム導入の優先順位は下がります。
事業規模の拡大と成長性
事業規模が拡大し、これから取り扱う製品数がどんどん増えていく予定の企業は、早いうちからSCMシステムを準備されることを強くお勧めします。規模が大きくなり、業務フローが複雑化しきってからでは、SCMシステムの新規導入は格段に難しくなってしまいます。
グローバル展開とガバナンス
そして、私が最も重要だと考えているのが「グローバル展開」の観点です。海外に拠点や販売網がある場合、日本から現地の状況をリアルタイムかつ正確に把握することは容易ではありません。
特に日本企業は、現地の会社を買収して海外拠点とするケースが多く見られます。この手法はスピード感がある反面、本社からのガバナンスが効きにくくなるという課題が生じがちです。だからこそ、SCMシステムを通じて全体を可視化・統制する仕組みが必要になります。
ここで少し、弊社の親会社がある韓国の事例をご紹介します。以前、韓国企業の経営者に「なぜ韓国企業は海外拠点のグローバルマネジメントが上手いのか?」と尋ねたことがあります。すると、「日本企業のように現地の企業を買収して販売会社にするのではなく、代表的な例としてサムスンなどは、現地に自前で法人をゼロから設立するアプローチをとるからだ。自分たちで作るからこそ、強力なガバナンスが効きやすい」という答えが返ってきました。こういった海外進出のアプローチの違いも、マネジメントの差に影響しているのかもしれません。
ここまであげた観点のうち、どれか1つが当てはまったからといって、すぐに「SCMシステムが絶対に必要だ」と短絡的に判断できるわけではありません。しかし、当てはまる課題が経営に与える影響が大きい場合は、SCMシステムの導入検討を本格的に始めるべきタイミングと言えるでしょう。
一方で、「将来的にはSCMシステムが必要だが、今は導入を後回しにした方が良い」という企業も存在します。

まずは、基幹システムやマスターデータの整備が十分にされていない企業です。
規模がまだ小さい会社などで、「会計システムは導入しているが、自社の受発注システムは持っておらず、3PLなどの外部のWMS(倉庫管理システム)に委託・依存している」といったケースがよく見受けられます。
SCMの計画システムを適切に稼働させるためには、前提として基幹システム側が持つ「実績データ」や「実行系のデータ」が正確でなければなりません。土台となる基幹システムやマスターデータが不十分な状態では、SCMの計画システムだけを導入しても効果を十分に引き出すことは難しいと考えます。
次に、営業、マーケティング、調達、生産など、実際にシステムを利用する部門の人たちが「SCMシステムの必要性を理解していない」、あるいは「プロジェクトに全く関わっていない」というケースです。このような状態では、SCMシステム導入の前にまずチェンジマネジメント(組織変革)が必要になります。
例えば営業部門の方々は、将来の販売予定数や売上に対するコミットメントを避けたがる傾向にあります。自分の数字がSCMシステム上でつまびらかになってしまうことを警戒する事情もあるかもしれませんが、「これからどれだけ売れるのか」という予測数が見えなければ、どれだけ調達し、どれだけ生産すべきかの計画も立てられません。
SCMシステムを有効に機能させるためには、各関係者の協力が不可欠です。まずはこの協力体制をしっかりと構築する取り組みが求められます。
最後に、生産や調達のプロセスが標準化されていないケースです。
現場の業務プロセスが完全にバラバラで属人化している場合、SCMシステム導入の推進者が全社の業務実態を正確に把握・理解することは非常に困難になります。部門や事業部ごとにやり方が異なるのはある程度仕方がない面もありますが、そのままの状態でシステム化を進めるのは危険です。
SCMシステム導入の推進者にとって、現状の業務プロセスの把握は必須要件です。もし現状が標準化されておらずバラバラであるならば、まずは「あるべき業務プロセス」を設計することが重要になります。
業務プロセスが設計されていないままSCMシステムだけを導入してしまうと、現場のやり方とSCMシステムが合致せず、結果として現場から「使えない」「使いたくない」という声が上がってしまう可能性が高いからです。
したがって、SCMシステムの導入を進めるにあたっては、必ず先に業務面の整備を完了させておくことが成功の鍵となります。

ここからは、SCMシステムの必要性を感じているA社の事例を用いて解説します。
A社は、国内市場よりも海外での販売割合が高く、海外に多くの販売会社を持っている企業です。これまでは海外販社からの受注に応じて製品を出荷していましたが、海外市場の急成長についていけず、度々欠品を起こしていました。
SCMの成熟度を5つの段階で示すと、A社はステージ1と2の間に位置しています。自社の状況を把握するために、各ステージの定義を見てみましょう。
ステージ1: すでに様々な機能不全が起きており、問題が起きてから対処する「後手」の対応となっている状態。各部門の機能やデータがバラバラで、全く連携していません。
ステージ2: 起こった事象に対してある程度効率的な対応はできているものの、依然として部署ごとにバラバラに機能している状態。
ステージ3: 企業内で機能が統合されており、先を見越した合理的な対応が可能な状態。まずはこのステージ3に到達することが推奨されます。
ステージ4: 自社内にとどまらず、サプライヤーや顧客とも情報を連携でき、戦略的にサプライチェーン全体を推進できる状態。
ステージ5: 非常にシステマティックかつ、エンドツーエンドで一貫性を持った管理ができている状態。
A社が「ステージ1と2の間」であるというのは、具体的にどのような状態なのでしょうか。

A社の場合、全く何も管理されていないわけではありません。個別の業務を見ると、需要計画は合理的に作成されており、在庫の基準も設けられています。システム上の実績データも把握できており、海外販社の計画データも存在しています。
しかし、それでも欠品などの問題が起きてしまうのは、「全社を通したSCM統括組織が存在しない」こと、そして「SCMの最適化が経営課題として認識されていない」ことが根本的な原因です。データや計画自体は各所に存在していても、それらを統合的に指揮・活用する体制がないため、部門間の壁を越えられず、ステージ1と2の間にとどまっているのがA社の実態です。

A社が次に目指しているのは「ステージ3」の状態です。すなわち、後手後手の対応から抜け出し、先回りして対応できる状態になることです。具体的には、海外の販社も含めたグローバルでの「PSI管理」の実現を目指しています。
これが実現すれば、需要計画はしっかりと一元管理されるようになります。まずは海外の主要販社だけでもデータ連携を進め、計画データを本社で一元化できれば、本社が全社のビジネスの見通しを正確に立てられるようになります。いっぺんに全ての販売会社を統合するのは難しいかもしれませんが、A社はそのような状態を明確な目標として掲げています。
皆様もぜひ一度、先ほどの成熟度段階のフレームワークと指標に照らし合わせて、自社が現在どのステージにあるのかをチェックしてみてはいかがでしょうか。
SCMシステムが生み出す経営インパクト
次に、SCMシステムが企業経営に生み出す「インパクト」についてお話しします。
これまでは、自社にSCMシステムが必要かどうかを見極めるための「定性的な適合性」を中心にお伝えしてきました。ここからは少し視点を変えて、「数値化できる指標」を用いて、SCMが経営にどのようなインパクトを与えるのかを具体的に解説したいと思います。

需要と供給の適正なマネジメント、つまりSCMの仕組みがうまく機能していれば、企業に多大なメリットをもたらします。
1. 機会損失の防止と売上成長率の向上
お客様が求めている製品を、欠品なく、遅れなく、欲しいタイミングで確実にお届けできれば、それだけ販売機会を逃さずに済みます。SCMシステムを活用することで、将来の需要に応じた精度の高い供給計画が立てられるようになります。その計画通りに実行できれば、確実に売上は伸び、企業の売上成長率の向上へと直結するのです。
2. 収益性の向上と利益率の改善
利益幅の大きい製品がより多く売れれば、当然ながら営業利益は向上します。また、製品の廃棄ロスが減少し、イレギュラーな緊急輸送などがなくなれば、無駄な費用の流出を防ぐことができます。このようにコストが削減されることで、企業の利益率はさらに高まります。SCMシステム上で販売金額と原価のシミュレーションを行うことができれば、継続的に利益を生み出す構造を構築できるようになります。
ここまでにあげた1番目(売上成長率の向上)と2番目(利益率の改善)の効果は、「収益性の改善」として企業のPL(損益計算書)に直接的な好影響を与えます。
3. 過剰在庫の削減とキャッシュの創出
3つ目は最も分かりやすく、かつSCMシステム導入の効果として一番早く目に見えて現れるものです。発注が適正化されて無駄な調達を行わなくなることで、過剰在庫が削減されます。これにより、調達したモノを素早く販売して現金化できるようになり、「キャッシュ・コンバージョン・サイクル(CCC)」が改善されます。結果として手元の資金が増加し、経営に余裕が生まれることは、会社を維持・成長させる上で極めて重要な要素です。
4. 資産の有効活用と投資の最適化
工場や生産設備、あるいは人的リソースを遊ばせておくことは最大の無駄です。SCMの仕組みを活用して、工場の稼働率を最大化するような精度の高い供給計画を立案できれば、設備などの固定資産への投資も最適化されます。
上記のうち、3番目(過剰在庫の削減)と4番目(投資の最適化)の効果は、「資本効率の改善」につながります。つまり、「収益性の改善」と「資本効率の改善」の両方を実現することこそが、企業価値を最大化することに他なりません。
弊社の提供しているSCMシステム「PlanNEL」も、まさにこれらの経営課題の解決に直接的に貢献できる仕組みです。
次からは、SCMシステムによってもたらされる具体的な導入効果について、もう少し直接的でシンプルな表現にまとめてみたいと思います。

まず基本となるのが、データの統合・一元化です。非常にシンプルなことですが、極めて重要です。各販社や各部門がExcelなど独自のツールだけで業務を完結させていると、会社全体の実態が見えません。SCMシステム導入によってデータを一元化し、全体を見通せるようになることで、最も大きな恩恵を受けるのは「本社」だと言えます。
次に未来の計画立案とシミュレーションの実現です。ERPなどの「実績・実行系システム」だけでは実現できないのが、未来の需給計画を作成することです。単に「現状の数字が見える」だけでは、プロアクティブな計画は作れません。さらに、作成した未来の計画に対して、「もし需要や供給条件が変わったらどうなるか」というWhat-Ifシミュレーションができることも、非常に重要な機能です。
次に「数量」と「金額」の可視化による経営判断です。未来のリスクや見通しを、数量だけでなく「金額」でも把握できる点も大きなポイントです。数量の予測だけでは、「今期どれくらいの売上が上がり、どれだけの利益が出るのか」という経営的な着地点は見えません。
もちろん、これは厳密な会計上の確定数字ではなく、あくまで需給バランスをベースとした予測値です。しかし経営層にとって、「今期の最終的な着地点はどこか」「どのくらい売れるのか」「どのようなリスクが潜んでいるのか」を金額ベースで事前に把握できることは、経営判断において極めて重要です。
最後に「同じ数字」を見て議論する、組織コミュニケーションへの貢献です。そして、ここが特に大事な点ですが、関係者全員が「同じ数字」を見て意思決定できるようになります。これまで自分の部門の最適化だけを考えていた人たちも、全社で統一された同じ数字を見ることで、「会社全体としてどうするべきか」という建設的な議論ができるようになります。
つまりSCMの仕組みは、お金や経営指標の改善だけでなく、組織間のコミュニケーションを円滑にし、意識改革を促す上でも非常に重要な役割を果たすと私は考えています。
なお、ここであげた要素は、きちんとしたSCMシステムであれば、標準的に備えている機能と言えます。
SCMシステムの投資対効果をどう定量化するか
ここからは、SCMシステムを導入した際の具体的な「効果の測定指標」についてお話しします。

まず、収益性の改善に貢献する効果を測定するための指標案として、「フィルレート(需要充足率)」があげられます。これは、「発生した需要に対して、どれだけ適切に製品を供給できたか」を示す指標です。
SCMシステム導入の効果を測る際は、過去実績のフィルレートと、「もしSCMシステムでシミュレーションして計画を立て、それを実行していた場合のフィルレート」を比較します。
この効果測定は、過去の会社の実績データを用いて行います。
まず、過去の実績データから当時のフィルレートを計算して求めます。次に、「もしSCMシステムを導入し、最適な需給調整を行っていた場合、どのような結果になっていたか」をシミュレーション計算します。
そして、そのシミュレーションによる計画結果をもとに再度フィルレートを求め、実際の過去の実績と比較することで、「SCMシステム導入によってどれくらいの改善効果が出るのか」を測定します。このような手法を「バックテスト」と呼び、弊社でも導入検討時の効果測定として実施しております。
フィルレートの改善幅が算出できたら、次はその改善による「売上の換算インパクト」を求めます。要するに、フィルレートが向上したことで「どれだけの欠品を回避できたのか」、つまり「売上機会がどれだけ増える可能性があるのか」を金額換算するということです。
具体的な計算式は図に記載の通りですが、弊社の場合、PlanNELを用いて過去データでシミュレーションを行うことで、「もしPlanNELを使っていれば、どの程度のフィルレートを実現できていたか」、そして「それによって売上がいくら向上していたか」を定量的に測ることができます。

もう1つの観点として、資本効率(BS:貸借対照表)改善のアプローチによる効果測定があります。こちらについても、測定のためのKPI例を3つあげて解説します。
1. 商品投下資本利益率(GMROI)の向上
過去データをもとにSCMシステムで計画を策定し、「平均在庫金額」を算出します。そして、実際の「粗利額」をこの平均在庫金額で割ったものが、商品投下資本利益率になります。過去の実績値と、SCMシステムのシミュレーションで算出された数値を比較し、「どちらがより少ない在庫投資で、同等以上の粗利を創出できるか」を評価します。
2. 在庫削減によるキャッシュの創出
最もシンプルでポピュラーな指標であり、弊社でもよく用いる分かりやすい効果です。SCMシステムが算出した「需要予測」と「最適化された在庫基準」を適用することで、現在よりどれだけ在庫を削減できるかを算出します。多くの企業は在庫を持ちすぎている傾向にあるため、在庫削減によって浮いた分の在庫金額がそのままキャッシュとして生み出されます。創出されたキャッシュは、販促活動や新製品開発などに投資でき、企業の成長を牽引するバリュードライバーとなります。
3. 在庫日数とキャッシュ・コンバージョン・サイクル(CCC)の短縮
過去の在庫金額や売上原価をもとに算出した「在庫回転率」と、SCMシステムで算出された数値を比較し、在庫日数やCCCがどれだけ短縮できるかを計算します。これは、既存の財務諸表のデータから計算することが可能です。
ここであげたものが指標の全てではありませんが、効果測定を行う際は、「自社にとってどの指標が最も重要か」を見極めて設定することが大切です。
その上で、過去のデータを用いて計算を行い、「SCMシステムを導入した場合(シミュレーション結果)」と「導入しない場合(過去の実績)」の差分を出すことで、SCMシステム導入によってどれほどの効果が生まれるのかを定量的に測定することができます。
ここまで、SCMシステム導入による効果測定の「定量的な指標」についてお話ししてきました。次からは、このように効果指標を定め、導入効果があると分かった上で、「いざ実際のシステムを導入しよう」となった場合のアプローチについてお話しいたします。
SCM導入に失敗しないための意思決定
いざSCMシステムを導入するフェーズに入った際、プロジェクトで大きな失敗をしないためのポイントとなるのが、「自社にとって正しいシステムを選定すること」と「プロジェクトの進め方」の2つです。
ここからは、導入に失敗するケースと成功するケースを比較しながら、陥りやすい罠と気をつけるべきポイントを解説します。

1. 「SCMシステム導入」そのものが目的化していないか
よくあるのが、システムを提供する私たちベンダーに対して「単なるシステム屋さん」として依頼をいただき、とにかくSCMシステムを入れること自体が目的になってしまっているケースです。SCMシステム導入はあくまで手段であり、「それが本当に自社の経営課題の解決につながっているのか」を一緒に考え、すり合わせていくプロセスが不可欠です。
2. 経営層がプロジェクトに関与しているか
「SCMシステムのことはよく分からないから」と、DX部門やIT部門、あるいは外部ベンダーに丸投げしてしまうケースがありますが、これが一番危険です。SCMは経営に直結する仕組みであるため、経営層がしっかりとスポンサー(強力な後援者)となり、プロジェクトに深く関与していただくことが非常に重要です。
3. 現状の「Excel業務」をそのまま再現しようとしていないか
現状、Excelでなんとか業務が回っている企業に多く見られます。「今のExcelをそのままシステム化して一元管理できるようにしてほしい」という要望です。現場の方々も現在の運用に慣れているため、そのままのやり方を希望されることがよくあります。
しかし、現状のプロセスをそのままSCMシステムに乗せるだけでうまくいくとは限りません。多くの場合、SCMシステム導入に合わせて「業務プロセスそのものをあるべき姿へと変える」必要があります。現場の皆様がその必要性を自覚し、協力し合える体制づくりが求められます。
4. 事前の「データ整備」はできているか
データ整備も本当に大きな課題です。例えば、「各販売会社で商品コードが全く違う」「管理の粒度がバラバラである」といったケースです。ある部署では「製品と得意先」の粒度で管理しているのに、別の部署では「製品と得意先の送り先」まで細かく管理しているなど、粒度が揃っていないとデータを正しく連携できません。「その粒度のデータしか持っていない」という状態ではデータが揃わず、SCMシステム導入のハードルは極めて高くなってしまいます。
5. 明確なKPIが設定されていない
「なんとなく良くなればいい」という曖昧な状態や、「何人分の業務工数を削減できるか」といったコストカットの観点ばかりが注目されるケースがあります。人員や工数の削減も一つのKPIではありますが、SCMがもたらす効果は決してそれだけではありません。先ほどあげたようなKPIをしっかりと定め、「何を、どのくらい改善したいのか」というゴールを明確に定義してからプロジェクトを始めることが重要です。
6. 最初から「全社一斉導入」を目指してしまう
SCMシステムを最初から全社に一気に導入したいというお考えもあるかもしれません。しかし、大規模なシステムであるほど最初からフル活用するのは難しく、特に業務改革を伴う場合は、一斉導入で本当にうまくいくかは分かりません。
そのため、まずは特定の製品や部門から「小さく始める」というのも有効なアプローチです。小さく始めて、ステップを踏んで段階的に対象範囲を広げていくことができるのか、自社が導入しようとしているSCMシステムがそうした柔軟な拡張に対応できるのかを、しっかりと見極める必要があります。
7. プロジェクトが「現場任せ」になり、部門横断のリーダーが不在
これも非常に大きな問題です。日本企業の傾向として、各部門が互いに遠慮してしまい、全体を強力にリードする人が不在になりがちです。その結果、導入作業が単なる「現場任せ」になってしまいます。SCMシステムの導入プロジェクトを成功させるには、部門の壁を越えて「部門横断」で全体を牽引するリーダーの存在が極めて重要になります。
8. 「導入して終わり」になっている
これも導入後の問題として最も多いケースです。例えばSCMシステムを入れた直後は、一時的に調達数が最適化され、在庫も適正になったとします。しかし、その効果が「一過性」のもので終わってしまっては意味がありません。
世の中の状況や外部環境は常に変化するため、同じことをただ繰り返しているだけでうまくいくわけではありません。システムの運用を定着させ、継続的に効果が維持される状態を作り出し、SCMシステムを活用して「継続的改善」を回し続けられる体制を構築することが何よりも重要だと考えます。
ここまでのお話を踏まえ、SCMシステム導入にあたって最後に皆様へお伝えしたい大事な問いかけをいくつか申し上げます。

「SCMシステムを導入すること」自体が目的になっていませんか? 本来の目的である「オペレーション競争力を高めること」を、経営陣がしっかりと理解し、合意できているでしょうか?

自社が得られる効果以上の「過剰な投資」になるシステムを選定していませんか? もちろん、単に安ければ良いというわけではありません。安価すぎるシステムでは経営的なインパクトが薄く、「失敗してもいいや」とプロジェクトに対する覚悟が伴わない可能性もあります。ある程度の投資を行うことは会社の覚悟を示すためにも重要ですが、それによって利益が圧迫されてしまうような過大投資は避けるべきです。

そのためには、特に中堅規模の企業にとっては、「小さく始められる」「ステップを踏んで段階的に拡張できる」システムを選ぶことが、成功への有効なアプローチとなるでしょう。
SCMシステム「PlanNEL」とROI診断サービスの紹介
最後に、私たちが提供しているSCMシステム「PlanNEL(プランネル)」について少しご紹介します。

弊社では、「PlanNEL」という名称のSaaS型SCMシステムを提供しています。日本には、規模は小さくとも非常に優秀で競争力のある企業が数多く存在します。そういった企業に広く活用していただきたいという思いから、日本国内で企画し、ローンチした製品です。
日本でローンチしてからすでに3年以上が経過しており、現在では中堅規模以上のお客様にも広くご利用いただいております。
では、具体的に「PlanNEL」を導入すると何ができるようになるのでしょうか。システムを用いた計画立案から発注までの基本的な流れをご説明します。
1. 基幹システムとのデータ連携
まずは、お客様がお使いの基幹システムから「過去の販売実績データ」や「対象品目の在庫データ」をご準備いただき、PlanNELに連携します。これらをベースに計画を立てていくことになりますが、本番運用においては、このデータ連携は自動で行われることが一般的です。
2. AIによる需要予測と人の「意思入れ」
過去の実績データが連携されると、システム内のAIが未来の需要予測を自動計算します。もちろんAIの計算結果が全てではなく、必要に応じて担当者が予測数量を調整することも可能です。このように、人の知見や最新の営業情報などを予測に反映させる作業を「意思入れ」と呼んでいます。
3. 在庫基準の最適化
需要予測が定まると、「どこに、いくつの在庫を持つべきか」という在庫の基準を決めることができます。「とりあえず3ヶ月分の在庫を持っておきましょう」と、一旦決めた基準を全く変えずに固定運用しているケースが多く見受けられますが、それだと実際の需要変動に対応できません。PlanNELでは、需要の変動に連動して在庫基準を適切に維持・更新していくことが可能です。
4. 補充計算と発注・生産依頼
在庫基準が決まると、「どこに、いくつ製品在庫を補充すべきか」が自動的に算出されます。これを「補充計算」と呼んでいますが、実際にはこれが工場への発注計画や発注依頼のデータとなります。
5. ラフカットプラン(大日程計画)の策定
工場に対して供給(生産)の依頼を出す際、「それが本当に生産可能な数量なのか」を検証・計画するモジュールも備わっています。これを「ラフカットプラン」や「大日程計画」と呼びます。
6. 基幹システムへのデータ戻し
最終的な発注数や生産依頼数が確定したら、そのデータを再び基幹システムへと戻し、一連の計画サイクルが完了します。

図において、「青の部分」で示されている計算やデータ連携のプロセスは、ほとんどシステムが自動で行ってくれます。人が介在すべき「赤の部分」、すなわち需要予測に対するしっかりとした「意思入れ」さえ行えば、「需要が決まれば、最適な発注が自動で決まる」という効率的な仕組みが構築されています。
最後にもう一つ、「ROI(投資対効果)の診断サービス」についてご紹介します。
「自社に過去の実績データがあるのは分かっているが、それをシステムに入れたところで本当に投資対効果が得られるのか?」——これは、システムを実際に動かしてみないと分からない部分であり、皆様が最も不安に感じられる点だと思います。
弊社の場合は、ご紹介した「PlanNEL」というシステム環境がすでに整っているため、お客様からいただいた過去の実績データを投入するだけで適用が可能です。そこからPlanNEL適用後のKPIを算出し、過去の実際の実績と比較することで、「どのくらい効果が改善するのか」を財務インパクトとして明確に可視化することができます。

本サービスは、以下のような順番で進めていきます。
- スコープの設定: 何を対象として効果測定を行うかを定義します。
- データ収集とベースライン算出: 必要なデータを収集し、現状のベースライン(実績)を算出します。
- バックテスト: 過去のデータを用いてPlanNEL上でシミュレーションを行い、PlanNELを使っていた場合の計画を立てます。
- インパクトの算出: 実績とシミュレーション結果を比較し、どの程度のインパクトがあるかの差分を算出します。
- 結果のレポート: 最終的な効果検証の結果をご報告いたします。
データの収集や整備状況によって前後しますが、大体3ヶ月程度で実施するプログラムとなっております。
この診断サービスのアウトプットとしては、「収益性の改善」や「資本効率の改善」、そして最終的な「ROI」が提示されます。「投資額をどのくらいの期間で回収できるのか」、あるいは「正味現在価値(NPV)」などの具体的な財務指標によって改善効果を明らかにします。
その結果を見て、「これなら確かに効果がある」とご納得いただけてから、実際にPlanNELの導入を真剣に検討していただくという進め方で全く問題ありません。事前にこうしたバックテストを行うことで、SCMシステム導入における「大きな失敗」を確実に防ぐことができます。
ご興味のある方は、まずは私たちのROI診断サービスをご利用いただき、皆様の経営判断にお役立てください。
本日のセミナーは以上となりますが、もし追加でご質問やご興味がございましたら、いつでもお問い合わせください。
また、弊社では、SCMセミナーを月1回程度の頻度で開催しておりますので、ぜひまたご参加いただけたらと思います(セミナーの一覧はこちらから確認できます)。本日は誠にありがとうございました。